マヨネーズの事は嫌いになっても、タルタルソースの事は嫌いにならないでください
幻想部の面々は急いで祭壇の修復を行っていた。
生徒会長の安西良子が暴れたせいで、召喚の魔法陣も壊れてしまっていたので同時進行で修復を行う。
どうにかすべての修復が終わるころに、安西良子が帰ってきた。
手には新しいフィッシュフライを持っている。
「遅くなって悪いわね、揚げたてを買いなおしてきたから。」
流石に顔や手についた返り血はキレイになっているようで松尾も少し安心。
祭壇にフィッシュフライの定食をセットして、全員ダンスの配置についた。
「ではミュージックスタート!」
いつものコミカルなダンスを踊り召喚を行う。
ぱん、ぱぱん。ぱん、ぱぱん。
「異世界の~、マリユカ宇宙の女神様~。ちょっと良いとこ見てみたい。」
ぱん、ぱぱん。ぱん、ぱぱん。
「「「おいでませー、おいでませー、マリユカ宇宙の女神様ー、おいでませー」」」
ぱん、ぱぱん。ぱん、ぱぱん。
そして四人は声をそろえてYの字になりながら叫ぶ。
「「「「いでよ!異世界の神々よ!」」」」
すると魔法陣が光りだし、あふれた光が人の形になる。
黄金の光は、デルリカになった。
ゆるくウェーブのかかった金髪に、白い肌の美女。
「みなさん、ごきげんよう」
「「「「ご機嫌麗しゅう、デルリカ様」」」」
「まあ、ワタクシの希望通りフィッシュフライですわね。ではいただきますわね。」
松尾進は、収納タスキから小さいテーブルとステンレス製のボールをだす。
「フィッシュフライは安西生徒会長が。ご飯とお味噌汁は植木さんが用意してくれました。そして、いまタルタルソースを作りますのでしばしお待ちください。」
「そういえば、フィッシュフライと言えばタルタルソースですわね。今作りますの?」
「はい、感謝の気持ちを込めて作らせていただきます。」
「面白そうですわね。作ってみてくださいな。」
(よし、マヨネーズが嫌いと言っていたがタルタルソースは大丈夫なようだな。)
収納タスキから材料を出す。
ゆで卵のみじん切り 1個分
玉ねぎのみじん切り 1/2個分
山田光秀が作ったマヨネーズ 大さじ6杯
ピクルスのみじん切りを大さじ3杯分
パセリのみじん切り 大さじ2杯分
砂糖小さじ 1杯
材料を一気にボールに入れて、スプーンでササっと掻き混ぜて終了。
そのソースをフィッシュフライにかけた。
「使用したマヨネーズもこちらで手作りして、酸っぱさを控えめにしてあります。その分足りない味はピクルスで補っていますので味付けも問題ないはずです。」
「まあ、随分手をかけてくれましたのね。ありがとう、松尾。」
ちなみに、松尾が用意したマヨネーズは山田光秀が作ったもの。
このために昨日、山田光秀からマヨネーズを奪い取ったのだ。計算高い松尾進である。
植木政子がご飯とお味噌汁をよそい終わると、デルリカはフィッシュフライに箸をつける。
「ふー、このサクサクとタルタルソースのブレンドが良いですわね。」
おいしそうにフィッシュフライを食べるデルリカ。
トンカツとは違い、淡白だけど海魚の風味が詰まったフライ。
満足そうにニコニコ食べた。
食事が終わると、植木政子がいれたお茶を飲んで一息つく。
そこで松尾はふと疑問を持った。
「そういえばデルリカ様は、お酒を飲まれるのですか?」
「いいえ、まったく嗜みませんわ。飲んでも完全解毒されてしまいますので酔いませんし。」
「神様はお酒が好きだという印象がありましたが、違うんですね。」
そしてデルリカは少し考える。
「いわれてみれば、よその世界の神様たちはお酒が好きですわね。マリユカ宇宙の神は誰も飲まないので考えたこともありませんでしたわ。」
「それは、戒律的なものですか?」
「いいえ、嗜好の問題ですわね。マリユカ宇宙の最高神マリー様が食いしん坊ですので、その影響で食道楽の神様が多いですわ。」
(デルリカ様も食いしん坊ですしね・・・)
喉まで出かかって、ぐっと飲みこんだ。
そして安堵もした。
貢物としてお酒を買って来いと言われたら、高校生にはハードルが高いと思っていたので。
「安心しましたぶふ。俺たち未成年者がお酒を買うのは大変ですので。」
もしもここでデルリカが「お酒も飲みたい」といえば、今度こそ山田光秀が大活躍できたのだが残念。
「松尾、そういえばマリユカ宇宙に来たいという事でしたら、頼みたいことがありましたわ。」
「それは何でしょうか?」
「マリユカ宇宙では、こちらの世界よりもマンガの技術が格段に低いのです。松尾達はマリー様にお会いになったことがあるのでわかると思いますが、マリー様は子供が好むようなことが大好きですのよ。ですから面白い漫画や、漫画の技術を提供してくれると嬉しいですわね。」
「なるほど・・・承知いたしました。それではイザとなったらマンガで協力できる人材を揃えておきましょう。」
「そう言ってくれますか。もしもマリー様が気に入るマンガを提供してくれましたら、それなりの見返りを約束いたしましょう。」
「おお、ありがとうございます!俺たち幻想部が全力で対応いたします!」
「期待していますわね。そうそう、次回はマリユカ宇宙にないものが食べたいですわ。例えば・・・握り寿司とか。向こうでは生魚が食べられませんから。」
「え、生魚を食べられないんですか?意外ですね。」
「こちらと違って、寄生虫の危険が多いのです。こちらの世界の魚は寄生虫が居なくて羨ましいですわ。では・・・ワタクシはソロソロ帰ると致しましょう。」
「本日もありがとうございます。」
「それでは、ごきげんよう。」
そしてデルリカは光となって消えて行った。
植木政子がひとり呟く。
「マヨネーズはあるのに・・・生魚は・・食べられないのですね・・・。」
庄司信也はそのつぶやきを拾う。
「確かに意外でしたな。そういえば、デルリカ様は子供のころにマヨネーズを食べてお腹を壊してたと言っていましたが、もしかするとマリユカ宇宙では卵も生で使うのに適さないのかもしれませんぞ。」
外国に、生魚や生卵を食べる文化は少ない。
日本のように安全が確保されていることが少ないからだ。
(日ノ本の国では魚や卵を生で食べても平気な秘密も、近いうちに調べてデルリカ様に報告しないとな。きっとご褒美がもらえるだろうから。)
松尾はそのことを心の『いつか調べるリスト』に追加して、今日の活動を告げる。
「では第5回、幻想部会議を始める。みな席について。」
席に着くなり、武田健二が発言する。
「その前に、我から皆に頼みがある。」
「どうしたぶふ?」
「その・・・もしも次回、収納タスキを手に入れるチャンスがあったら、我にそのチャンスを譲って欲しいのだ。現在、我だけが収納タスキを持っていない故・・・。」
すると松尾進は無言で、すっと収納タスキを武田健二の前に置く。
「これは?」
「武田氏は転移させられてしまって知らないだろうが、あの後に生徒会長が二個目のタスキをゲットしたんだぶふ。そのことを相談したら快く譲ってくれた。それは武田氏のものだ。」
信じられないという顔で、手を震わせながらタスキに触れ、それから安西良子を見る。
「う、うそだろ。こんな貴重なものを譲ってくれるなんて。生徒会長は美人天使ですか・・・。きっと前世は麗しい女神だったに違いない。あ、ありがとうございます!」
深々と頭をさげる武田健二。
その姿に、安西良子はまんざらでもない顔である。
「さすがに命の危機を迎えたバンダナ君を差し置いて、神器を二つ持つのは気が引けるしね。」
「本当に!本当にありがとうございます!美しすぎる生徒会長、まじ女神!」
武田健二も嬉しそうだが、安西良子も嬉しそうだ。
けっこうおだてに弱いタイプの生徒会長。
安西良子をほめちぎる武田健二は、慈悲で収納タスキを譲ってもらったと思っているが、安西良子の中では理由が少し違う。
子分だから面倒見る。それが理由だ。
敵には過激だが、自分の子分には優しい。そういう女性なので収納タスキのような貴重なものも惜しげなく与えたのだ。
武田健二は、知らないうちに自分が生徒会長から子分認定されていることにまだ気づいていない。
「では議題を戻すぶふ。マンガを描ける協力者を探そう。心当たりのある人はいる?」
庄司信也が手を上げた。
「松尾氏、王道で行けば漫画部ですぞ。美術部にも居るかもしれませんが、まずは漫画部でしょうぞ。」
「こふー、やはりそうだよね。でもどうやって協力してもらう?」
安西良子が、殺し屋のような細い目を光らせる。
「あれをやれば良いじゃないかしら。スキル習得の試練の召喚を。それで連中の望む能力を与えれば、こっちの頼みは何でも聞いてくれるんじゃないの。」
「あ・・・あれですか。こ・・・怖くないですか?」
少し怯え気味の植木政子。
まるで柳の下に立つ幽霊のような風貌だ。
その植木政子に、安西良子は不敵にほほ笑む。
「大丈夫、今はみんなも収納タスキを持ってるでしょ。そこに武器をたくさん入れて迎え撃てばどうにかなるわよ。」
武田健二は腕を組んで頷く。
「今度は充分に用意すれば余裕であろうな。たとえば全員がクロスボウをもって、扇形に構えて迎え撃てば瞬殺も可能ぞ。」
「じゃ、・・・じゃあ、明日までに・・・クロスボウを・5~6個・・・用意しておきます。」
クロスボウ5~6個の値段は100万円を超えるが、植木政子なら余裕だろう。
ここで松尾進は立ち上がる。
「では、必要ならばスキル習得も交渉の材料にする方向で話に行こう。出発ぶふ!」
幻想部+生徒会長は、そのまま漫画部に向かった。




