表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/20

神様の手違いに謝罪を要求する。

今日も幻想部は部室に集まっていた。

まだゴールデンウィーク真っただ中。

しかし彼らは学校に来る。


リア充ではないので連休中に予定が無いから。


幻想部の4人は部室のテーブルに座っている。

部長の松尾進は、いつものように指を組んで肘をついたお気に入りのポーズをとる。


「では第4回、幻想部会議を始めるぶふ。植木さん、例のモノを配って。」

「は・・・はい。」


植木政子がプリントアウトした紙を4人配る。

そこには、以前デルリカが語った話が書いてあった。


庄司信也が出っ歯を光らせる。

「ほほー、これは前にデルリカ様がお話してくださった、売れない芸人の出来事ですな。」


バンダナを巻いた武田健二は、その内容をじっと見つめる。

「こいつは確か異世界転移を成功させたばかりではなく、元の世界に帰ってきても大成功した人であるな・・・羨ましい。」


松尾進はプリントアウトした内容の一点を指さす。

「この話は、実はとんでもない秘密が隠されていたぶふ。神様の手違いによりノープラン状態で送り込まれた芸人さんは、可哀そうだからと言って、魔法チートと永遠の女子高生ゴーレムをもらってるのだよ。」


そこで武田健二はうなずく。

「なるほど、これはラノベによくある『神様が手違いですまんと謝る』というアレなわけだな。」

「その通り!つまり何らかの方法で神様に手違いが起こってくれれば、俺たちも楽々と異世界転生できる可能性がある。」

「だが、そう簡単に神様が手違いをしてくれるのか?」


松尾進はニヤリと笑った。

「事故を装って、手違いを誘発すればいいとは思わないか?」


武田健二は、目から鱗が落ちた表情になりガックリと両手を床につく。

「そんな裏技を考えていたとは・・・。松尾卿、天才か。」


感応する武田健二をよそに、庄司信也は懐疑的な目を向ける。

「ですが、そう都合よく失敗してくれますかな?」

「大丈夫ぶふ、四人の神様の中で一番うっかりしていそうな神様におねがいすればいいのさ。」

「ほほー、してどなたに期待しているのですかな?」


一泊置いて皆を見まわす。

「マリー様ぶふ。あの中で一番幼そうだったから、言いくるめるには一番いいと思うのだ。」


「我は大賛成ぞ。マリー様、良いじゃやないか!是非にもお呼びしよう。そしてprpr。」

「マリー様・・・可愛いらしいですよね・・・・またあの笑顔を・・・見たいですね。」


武田健二と植木政子は賛成のようだ。


しかし、庄司信也は慎重な姿勢を崩さなかった。

「いやいや、油断はいけませんぞ。ああいう無邪気系の神様は、無邪気に人を殺しかねませんからな。トラックの話のときも我らの死を見たがっていた節もありましたぞ。それに最高神にとって某たちが謝罪するに値する相手とみられているとは限りませんぞ。我々だって虫けらを殺しても謝罪しないではないか。それと同じ心理で無視される可能性もありますぞ。」


そこで丁度、生徒会長の安西良子が来た。

副生徒会長も一緒だ。

(今日こそは、生徒会長にこの部に足を運ぶことをやめさせてやる。)


かすかな思惑を胸についてきた副生徒会長は、わざとらしく大きな声で生徒会長に話しかける。

「今すぐ生徒会室に戻りましょう。ここは生徒会長にふさわしくありません。」


その言葉に、武田健二が反応した。

「おいイケメン、だったらお前だけ帰れ。今日はマリー様を召喚する予定だが、お前は邪魔だ。」


その言葉に、グインっとスゴ勢いで首だけ振り返る副生徒会長。

「そこのバンダナ君、今日はマリー様を召喚するのか?」

「お前には関係ないことだ。」


否定はない。

そこで副生徒会長はコホンと咳払いをひとつ。

「ですが、今日は仕事もありませんし生徒会長がここで時間を潰すのもありかもしれませんね。」


(ロリコンが日和ったぶふ)

(ロ・・・ロリコン・・・です)

(ロリコンですな)

(ロリコンの業を背負いし者だな)

(ロリコンね)


みんなの心が、変な形で一つになった。


だが慈悲はない。

松尾進は、横に大きな体を利用して相撲取りのように副生徒会長を部室から押し出した。

「何の協力もしない人は出て行ってくださいぶふ。どすこい!」

「なんで私を押し出す。なら生徒会長も押し出したまえ。」


押されながら叫ぶ副生徒会長に対して、安西良子は手に持っているものを見せた。

「あ、私は『季節のフルーツたっぷリゼリー詰め合わせ』を持ってきたから。マリー様も喜んでくれるんじゃないかしら。」

「じゃあ私は撮影係をするので参加させてくれ。なんでもするから・・・なんでもするから!」


ピクッ


松尾進の耳が反応した。

「ほー、何でもするんですね。ではやってもらいましょうぶふ。」


冷や汗をたらしながら庄司信也が尋ねる。

「な、なにをさせる気ですかな?」

「もちろん、お手伝いだぶふ。ではミュージックスタート!」


音楽が鳴りだし、幻想部+生徒会長が召喚のダンスを始める。


とくに何もお手伝いを指示されなかった副生徒会長は所在なさげにしているが、幻想部は気にしない。


ぱん、ぱぱん。ぱん、ぱぱん。


「異世界の~、マリユカ宇宙の女神様~。ちょっと良いとこ見てみたい。」


ぱん、ぱぱん。ぱん、ぱぱん。


「「「おいでませー、おいでませー、マリユカ宇宙の女神様ー、おいでませー」」」


ぱん、ぱぱん。ぱん、ぱぱん。


そして四人は声をそろえてYの字になりながら叫ぶ。


「「「「いでよ!最高神マリユカ様!」」」」


すると魔法陣が光りがあふれだす


そこで松尾進が叫んだ。


「副会長、今です!あの光に飛び込んで!そのあとマリー様にお茶を入れてください。」

「え?わ、わかった!」


副会長は慌てて言われるままに魔法陣に足を踏み入れる。


そこで光が水色髪の少女マリーになると、ちょうど光に飛び込もうとしていた副生徒会長はタックルをしそうになった。

しかし流石最高神。マリーがタックルをくらう直前に副生徒会長が光となって消えた。


「呼ばれてきましたマリーですよー。お菓子を下さいなー。」

「は、はい。本日は俺がマカロンを用意して、生徒会長がフルーツがたっぷり入ったゼリーを用意いたしました。紅茶は植木さんです。(副生徒会長、どうなったんだろう?)」

「わーい、マカロンとゼリーだー。さあ植木、紅茶を入れてくださいなー。」


ちなみに、このマカロンは昨日、顧問の山田光秀が買ってきたものだ。

ちゃっかり自分が買ってきたかのようなこと言う松尾進。相変わらずこズルイ。


消えたせい副生徒会長は気になるが、今はマリーに集中する必要がある。

副生徒会長の安否を気にしながらも、慌てて植木政子は祭壇に駆け寄り紅茶をいれた。

マリーは無邪気にお菓子を食べはじめる。


そこで、庄司信也が恐る恐る口を開く。

「マ、マリー様。いま、マリー様が現れたときにぶつかりそうになった人・・・、副生徒会長はどうなってしまったのでしょうか?」


すると「にぱー」と無邪気な笑顔が返ってくる。

「そういえば何かぶつかって来ましたねー。適当に消し去ったので死んだんじゃないでしょうか。」


そういうと、まったく気にしていない様子でお菓子を食べ続ける。


松尾進はごくりとつばを飲み込んだ。

(ヤベー、庄司氏が推理した通りだ。この女神さまは人一人の命なんて虫けら同然に扱ってるぶふ。)

心底、自分が「ぶつかっちゃったテヘ作戦」をやらなくてよかったと思う松尾進であった。


そこで、デルリカの話を思い出す。芸人さんが異世界転移したときの話だ。

『一度だけマリユカ様の手違いでノープランで転移させれてしまった人が居ましたの。』


そして松尾進はやっと気づいた。

それに続いた言葉に注目すべきだったのだ。

『ですがノープランでの異世界転移はあまりに不憫だとお兄ちゃんが同情して、最上級の魔道の奥技を授けたのです。』


そう、マリーは手違いをしても気にしていなかったのだ。

同情したのは長道。


このプラン「神様に手違いを謝罪してもらう作戦」は、初めから不可能案件だったのだ。

神様の謝罪とは、神様自身がが『済まなかった』と思って初めて成り立つ。

人を死なせても、気にも留めない神様相手では成り立たない。


もっと早く気付くべきだった。

副生徒会長は、このミスを気づかせてくれる尊い犠牲になったのだ。

その献身に一応は感謝して心の中で合掌する松尾進。


マリーはゼリーを食べ終わると、にこやかに松尾進を見た。

「それで今日はマリーに、どんな御用ですか?」


いまさら用が無かったとは言えない。

慌てて脳みそをフル回転させて理由をひねり出す。


「えっと、えー・・・そうだ。前にデルリカ様が収納タスキというモノを生徒会長に与えてくださったのですが、それを俺たちも欲しいなーと思いまして。手に入れるにはどうしたらいいかお尋ねしたくて・・・。」


思いっきり誤魔化してみた。

しかし、マリーは無邪気に微笑む。


「あー、長道が気まぐれで作ったアレですねー。確か沢山余っていたと思いますよー。」


そういうと何もない空間に手を突っ込み、タスキを5つ引っ張り出した。


「これですねー。なんか面白いことしたらあげても良いですよー。なんかやってー。」


いきなり無茶ぶりが来た。


ここで意外にも、いつもテンションが低い植木政子が手を上げた。

「わ、私が・・・一発芸を・・・します。生徒会長さん・・・お手伝いをお願いしても・・・いいですか?」

「私?別にいいけど。」


植木政子は生徒会長に、腕で輪を作るようにお願いする。

その輪を植木政子が、まるで死霊のように這ってくぐる。


「一発芸・・・3D貞子・・・・・」


自分のキャラを生かした捨て身の一発芸だ。

これにマリーは腹を抱えて笑う。


「あははははは、そっくりすぎますよー。すごい悪霊ですよー。あはははは、長道のカレーウンコ芸並みに面白いです。植木にも収納タスキを与えますねー。」


カレーウンコ芸とは?

そんな疑問も頭に浮かんだが、下手な言葉をはさんでマリーの気が変わってはマズいと、植木政子は素直にタスキを受け取った。

「あ、ありがたき・・・・幸せに存じます。」


松尾進は燃え上がる。

(あのレベルの芸で良いのか!だったら俺も!)


「2番、松尾進。一発芸の消える制服をしますぶふ。」


松尾はまず制服のボタンをはずして、袖から腕を抜いた。

今制服は肩からかかっているだけの状態になっている。

「では、俺のイリュージョンをご覧あれ!」


その状態で、器用にお腹の脂肪に制服の上着を押し込んだ。

一瞬でおなかの脂肪に吸い込まれるように消える上着。

豊富な脂肪を持つ松尾ならではの芸だ。


そしてコミカルな表情で、両手を広げてポーズをとる。

そのとき、お腹の圧力で勢いよく脂肪の隙間から噴き出す制服の上着。

その上着が空中に滞空している瞬間に、一瞬で袖を通して着てしまった。


それを見てまたマリーは大爆笑する。


「あはははははは、何でですかそれはー。すごいデブ芸!さすがに長道もデブ芸はできないですから、その芸はすごいですよー。あはははは。松尾にもタスキを授けましょう。」


松尾は頭を下げて恭しく受け取る。

「身に余る光栄にございます。」

(やった!とうとう異世界パワーをゲットしたぞ!)


喜びで飛び上がりそうになりつつも、なんとかこらえて元の位置に下がる。


次は興奮した武田健二が前に出る。

「三番、武田健二。逆立ち一本指腕立て伏せをします!」


さっと上手に逆立ちをすると、そのままさらに片手逆立ちになる。

そのまま指を一本のばし、腕一本で腕立てをする。

アニメのような光景だ。なかなかの筋力である。

しかし、絵面は地味だ。

マリーは白けた表情になってしまった。


「つまらないですよー。罰としてランダム転移の刑です。どっか行っちゃえー。」


その言葉が叫ばれると同時に、武田健二はシュンと姿を消した。


その光景に、一瞬場が凍り付く。

庄司信也は恐る恐る尋ねる。


「マリー様、武田氏はどこに飛ばされたのでしょうか?」

「知らなーい。適当に飛ばしたから土の中かもしれませんし、空の上かもしれません。あのバンダナがどうなってもマリーにはどうでもいいですからねー。」

そして無邪気に「にぱー」と笑う。


その笑顔に庄司信也は背筋が凍り付いた。

(ヤバイ、ヤバい、ヤバいですぞ。やはり無邪気系の無慈悲神様でしたな。命を懸けるのはごめんですな。芸を見せるのは辞退しなければ)


青くなる庄司信也にマリーは笑顔で指さす。

「次は出っ歯の番です。何もしなかったら出っ歯にも罰を与えますよー。」


(ぐぬぬ、退くも地獄、進むも地獄。なれば一か八か進むしかないですな。)


庄司信也15歳。

まさかこんな若さで、死を覚悟する恐怖を味わうとは思わなかった。


「よ、四番、庄司信也。出っ歯芸をします」


懐からボールペンを出す。

それに向かって出っ歯振り下ろす。

「せいや!」


バキ!

みごとにボールペンが真っ二つになる。

松尾進も「おおー」と声を上げた。


しかし・・・

マリーは詰まらなそうな顔だった。

「つまらないですねー。罰として一生彼女が出来ない呪いをかけまーす。」

「やめてーーーー!それだけはやめてください!」


驚愕で一瞬のけぞった庄司信也は、慌てて土下座をしてお詫びをしようとした。

しかし、その時に奇跡が起こった。


勢いよく土下座した庄司信也の出っ歯が、ガッと床に刺さったのだ。


それを見てマリーは爆笑する。

「あははは、出っ歯土下座ー、出っ歯土下座ー。情けない顔で出っ歯土下座とか面白すぎですよー。あははは。出っ歯もやればできるじゃないですかー。景品に収納タスキを上げましょう。」

そういうと、土下座して出っ歯が床から抜けない庄司信也に、ぺしっと収納タスキを投げつけた。


何とか床から出っ歯を抜いた庄司信也は泣きながらタスキを握り締める。

「ありがとうございます!では一生彼女が出来ない呪いも解除ですな。」


マリーは良い笑顔で首を横に振る。

「呪いはそのままでーす。」

「そんなあああああああ。」


まだ何か言いたそうな庄司信也を無視して、最後にマリーは安西良子を指さした。

「じゃあ、最後に安西も何かしてくださいな。」


下手なことをすれば命が無いかもしれない。

そんな状況だが、安西良子は眉一つ動かさず立ち上がる。


そしてマリーに無言で近づくと、収納タスキからプリンパフェを出した。

「私は芸を持ちませんので、これでご容赦を。」

「わーい、プリンパフェだ!これは私の大好物なんですよー。安西にもタスキを上げましょう。」


安西良子、二個目の収納タスキをゲット。


そのあと、パフェを食べ終わったマリーは良い笑顔で一言残して帰って行った。

「面白かったです。また遊びに呼んでくださいねー。」


光となって消えていくマリーを眺めながら全員が思った。

(もうマリー様を呼ぶのはやめよう)


無邪気ゆえの傍若無人。

その恐ろしさを肌で感じた幻想部たちであった。

マリーが消えたのを確認して10秒ほどして、全員どさりと力尽きる。


植木政子は死霊のような姿で震えていた。

「マ、マリー様の・・・恐ろしさを知らずに芸をしてしまいましたが・・・危険な橋を渡っていたのですね・・・。」

松尾進もその言葉にうなづく。

「たしかに知らずに危険な橋をわたっていたぶふ。恐怖を知る前にうまく芸ができたのはラッキーだった。」


庄司信也は半べそ状態だ。

「くう、だからマリー様はやめようと言ったのですぞ。某は一生彼女が出来ないのですぞ。ぐぐぐ。そういえば生徒会長はマリー様の好物を偶然持っていて羨ましいですな。運が良すぎますぞ。」


すると安西良子はシレっとした顔のまま語った。

「あ、これはマリー様を呼ぶなら念のためにプリンパフェを持っていた方がいいとお告げがあったの。マリー様は人の生き死になんてなんとも思っていないからご機嫌取りに必要だって。長道神様が脳に直接語り掛けてく教えてくれなければ危ないところだったわ。」

「生徒会長!そういうことは情報共有してほしいですぞ!それさえ知っていれば某は一生彼女が出来ない呪いを受けずに済んだんですぞ!」

「出っ歯君、どんまい。」

「うおおおおおおおお!」


頑張れ庄司信也。

彼女が出来ない呪いなら抜け道もある。

お見合いで嫁を貰え。

彼女として付き合わなければワンチャン可能性はある。

もしくは彼氏を作るという手もあるぞ。うほ。


武田健二・・・良い奴だったよ。

副生徒会長・・・君のことは忘れない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ランキングアップのために、↓↓クリックしてくれると嬉しいです
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ