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吹奏楽部からの刺客

生徒会長の安西良子は、朝に生徒会室に来て必要な仕事を素早く終わらせると、スキップをしながら生徒会室を出て行った。

その姿をいぶかしむ、副生徒会長の斎藤吉郎。


彼は、腹黒系イケメンと陰口をたたかれているが、それは外見からのイメージに過ぎない。

どちらかというと、融通が利かない堅物系イケメンである。

だからこそ、生徒会長が楽しそうに特定の部活に足しげく通うことに疑問を感じていた。


(生徒会長は幻想部に肩入れしすぎなのでは?)


たしかに出来たばかりの幻想部をフォローする事は必要かもしれない。

しかし、今年誕生した部は幻想部だけではないし、フォローが必要そうな部活も沢山ある。


その代表的なところだと、吹奏楽部。


毎年、まったくの素人が何人も入部してくる。

そういう新人は、楽器の音を出せるようになるまで屋外で練習させられるのだが、この音がうるさいと毎年トラブルになっている。

そういうトラブルを起こす部活にこそ、顔を出してフォローすべきではと考えている。


そこで、斎藤吉郎はふと良い考えが浮かんだ。


(よし、生徒会長に目を覚ましてもらうため、荒療治と行くか。)

陰険そうな細目がキランと光った。



そのころ幻想部の部室では。

顧問の山田光秀が、マカロンを買ってきて騒いでいた。


「おいおい、何で今日は先生のお供物を却下するんだ。わざわざ新宿のデパートで買ってきた奴だぞ。」


松尾進は、太ったほっぺを揺らしながらマカロンのはいった箱を突き返す。

「こふー、昨日デルリカ様から直接脳内にリクエストが届いたんですよ。今日は新鮮なお刺身が食べたいって。だから今日は俺が買ってきたお刺身セットをだすんでマカロンはいらないんです。」

「ご、ご飯と・・・お味噌汁は・・・私が持ってきました・・・。」


誇らしげに植木政子は、ご飯とお味噌汁を掲げて見せる。


そこに安西良子がやってきた。

「やってるわね。今日のリクエストがお刺身だっていうから、私は念のため海鮮丼を持ってきたわ。うっかり2人来たときに備えてね。」

「おお、さすが生徒会長ぶふ。備えあれば患いなし。余ったら後から自分で食べればいいだけだしな。」


こうして、準備が進む。


魔法陣を書いて、幻想部の4人と、生徒会長の安西良子が召喚の為のダンスの配置についた。

「ではミュージックスター・・・」


ブフー

ピュヒー

ポユー

ブオーーーン


部室の外から騒音が響く。

「なんの騒音だ?今から召喚をしようというときに。」


松尾進は慌てて部室の外に出る。

するとそこには、吹奏楽部の新人と思われる女子生徒が5人、一生懸命楽器の音を出そうと頑張っていた。

木管楽器や金管楽器は、素人が普通にドレミの音を出すまでが大変なのだ。


文句を言おうと思った松尾進だが、まだ初見の女子に話しかけられるほど女性慣れしていない。

すぐに部室に入って、植木政子を呼ぶ。


「植木さん、部室の外に吹奏楽部っぽい生徒がたむろしているから、移動してくれるように説得してくれないか?俺には女子に話しかけるのはまだハードルが高いから頼むぶふ。」


おいおい、植木政子も女子だぞ。

だが植木政子はそんな松尾進の言葉を気にしていないようだ。

それよりも、他人に文句を言わないといけなさそうな事に腰が引ける。


「わ、私も・・・他人意見するのは・・・苦手です・・・。」

松尾進は半コミュ障。ゆえに他人を恐れる人の気持ちはよくわかる。

だから無理強いは出来なかった。

「そうなんだ、なら無理はしなくていいよ。こっちには顧問の教師もいるし。」


そして山田光秀を見る。

「先生、ちょっと頑張ってきてください。」

「面倒なことは先生に押し付けるのか?お前たちの部活なんだからお前たちがやりなさい。」

「そうですか、では今日はデルリカ様のご降臨は無理ですね。実に残念です。ぶふふ。」

「ちょっと待ってろ、いま注意してくるからな。」


ちょろい体育教師である。


「おい、お前たち。吹奏楽部は毎年騒音でトラブルを起こしてるのを知らないのか?他の部活の先輩に怒られないためにも音楽室で吹きなさい。」


だが吹奏楽部と思われる女子生徒たちは、ぐっとそこに踏みとどまる。

「演奏できるようになるまで、先輩の邪魔にならないように外で練習するように言われているんです。それでさっきサッカー部の人に怒られてしまって。そしたら副生徒会長がここで練習すればいいって連れてきてくれたんです。」

「でもなあ、こっちも騒音があると困る活動をするからなあ。」


部室の中から安西良子はその会話を聞いてた。

そして、的外れな推理をする。

「これはもしや!」


庄司信也がそのつぶやきを拾う。

「生徒会長、何か知っているのですかな?」

「これは私の推理なんだけど、いままで文化部で一番部費をもらっていたのは吹奏楽部なの。でも、昨日の生徒会集会で幻想部が一歩リードしたから、活動を邪魔して『ほらたいした活動していないじゃない。なら部費はいらないでしょ』と持っていく気かもしれないわね。」

「なんと、さすが陰険女子のたまり場と名高い吹奏楽部。汚い攻撃をしてきますな。」

「ええ、おそらくここで追い返しても、根本的な解決をしないと、第2第3の刺客が送り込まれるわね。」


吹奏楽部に濡れ衣をかぶせる生徒会長だった。

しかし、そこまで聞いて松尾進はニヤリと笑った。


大仰に両手を広げる。

「こふー。生徒会長、話は聞かせてもらいました。ならば俺たちの力を見せつけてやろうではないですか。」


バンダナがカッコいい(と、本人は思っている)武田健二が松尾進の肩をガッと掴む。


「我が魂の盟友よ、何かいい案でもあるのか?」

「ぶふふ、刺客を送ってきた連中に対して、逆に刺客を送り返してやるのだ。」

「どうやってだ?」

「ぶふふ、今外で練習している吹奏楽部の新人を、異世界パワーで先輩たちをはるかに超える演奏者にして送り返してやるのさ。そうすればもう新人が屋外で練習する理由はなくなると同時に、刺客を送り込んできた先輩たちはレギュラーから外れる屈辱に苦しむのだ。でぶはははは。」


武田健二は、目から鱗が落ちた表情になりガックリと両手を床につく。

「たしかに・・・。それなら悪の中枢にダメージを与えることができる。松尾卿、天才か。」


安西良子の額に軽く汗が流れた。

「(さすが松尾君、やはり敵に回したら危険そうね。)具体的にはどうするつもり?」


「実は長道神様からもらった召喚本に、スキルを得る試練を受ける儀式というのがあるんす。それに賭けてみようと思いまぶふ。」

「どこまでやれるか・・・試す価値はあるわね。それで行きましょう。」


松尾は山田光秀の背中に声をかける。

「山田先生、その5人に10分だけこっちの手伝いをするように伝えてください。そしたら好きにしていいのでと。」

「おい部長、なぜ伝言で言わせる・・・。」

「いえ、女子に話しかけるのはハードルが高いぶふ。」


この発言は、植木政子や安西良子を女子としてみていないと言っているのに等しいが、

幸い安西良子にはこの言葉が聞こえていなかった。

聞こえていら、生徒会のエヴァン〇リオンと呼ばれる安西良子に殺されていただろう。

松尾進、命拾い。


山田光秀は呆れながら吹奏楽部の新人に説明した。すると新人たちは嬉しそうに承諾した。

どうやら、屋外での練習ではかなり追い出されることが続いていて、大変だったらしい。

10分程度の協力でこの場が使えるなら、むしろありがたいと言うことだった。


吹奏楽部の新人5人は、魔法陣が書かれた部室に一瞬躊躇するが、好奇心が勝ったのか物珍しそうに周りを観察し始めた。

「これ、魔術ってやつ?ここオカルト部?」

「えっと、たしか今年できた幻想部ってとこだと思う。異世界のチートとか研究するって噂だよ。」

「え、なんで生徒会長が居るの?」

「うわ、うちのクラスの妖怪さんが居る。」

「お刺身、おいしそう・・・。」


小声でもそもそ言っているが、全部聞こえている。


そして、松尾進は小さい魔法陣を5つほど書き足した。


「では吹奏楽部の人たちは、いまから楽器演奏の上達をするための試練を受けてもらう。この試練の魔法が成功すればプロ顔負けの腕前になるはずだ。ぶふ。」


吹奏楽部の5人は悩むが、そこで生徒会長の安西良子が張りのある声で命令した。


「ほら、ちゃっちゃとやりなさい。私に逆らったら吹奏楽部も潰すわよ!」


すごい職権乱用のパワハラを見た。


慌てて5人は小動物のように委縮しつつ、小さい魔法陣に乗る。

その間に幻想部メンバーは松尾進からは新しい召喚の儀式の説明を受けた。


幻想部のメンバーは、一応召喚本の写しを持っているので軽い説明で理解したが、安西良子はまだ十分に召喚の儀式を把握していないので、今回は記録係と相成った。


すぐにメンバーは魔法陣前でスタンバイ。

「ではミュージックスタートぶふ!」


音楽が流れると、今までとは違う踊りを始める。

Aぱーとでは、Z状に動かしながら手を叩く。

Bパートでは、パン、パパンと手を打って「ひゅー」と飛び上がるのを繰り返す。

Cパートでは、バレーのようにつま先立ちになり、くるくる回り始めた。

そしてDパート。4人は逆立ちをすると、足で反動をつけて頭でくるくる回るのを繰り返す。

幻想部のメンバーは、ひそかに全員運動神経がいいことが判明した瞬間であった。


曲が終わると同時に、膝立ちで両腕を広げて止まる。


そして手をたたき出した。


ぱん、ぱぱん。ぱん、ぱぱん。


「異世界の~、マリユカ宇宙の女神様~。ちょっとお願い良いですか~。」


ぱん、ぱぱん。ぱん、ぱぱん。


「「「おいでませー、おいでませー、マリユカ宇宙の女神様ー、アーンド、困ったときの長道様。おいでませー」」」


ぱん、ぱぱん。ぱん、ぱぱん。


そして四人は声をそろえてYの字になりながら叫ぶ。


「「「「異世界の神々よ、欲するものに七難八苦を与えたまえ!」」」」



すると魔法陣が光りだし、溢れた光が2人の人の形になる。

1人は金髪の美しい女性、デルリカ。

もう一人は、いかにも普通の日本人という風貌の長道だった。


そして出てくるなり長道は溜息をついた。

「まさかこの儀式まで使いこなすとは。そう簡単にできないように設定したつもりだったけど、君たちの情熱を甘く見ていました。」

「ふふふ、よろしいではないですか。お兄ちゃんにも出番が来たのですから楽しみましょう。」


デルリカは長道の手を握ると、ニコニコ祭壇に歩み寄る。

当然、吹奏楽部の新人5人はこの非常識な光景に固まっている。


慌てて植木政子が、お味噌汁を寄ってお茶碗にご飯を盛る。

目の前のお刺身を見て、長道のテンションが上がった。


「あ、和食じゃないですか。久しぶりだなー。これ食べても良いんですか?」

「は、はい・・・お供え物ですので・・・よろしければ。」


長道とデルリカが席に着くと、デルリカはお刺身定食を選び、長道は海鮮丼を選んだ。


デルリカは外人っぽい外見なのに、器用にお箸を使いこなす。


「こふー。デルリカ様、長道様。本日のお刺身を用意したのは俺です。ご飯とお味噌汁は植木さんが。海鮮丼の提供は生徒会長です。」


「大儀ですわ。」

「あ、そうなんですか。わざわざ僕の分までありがとうございます。」


そして二人は、軽い会話をしながら食事を始めた。

食事が終わると、植木政子は食器を下げてお茶を入れる。


そこまで根気よく待ってから、松尾進は長道を見た。


「では、試練の儀式をお願いいたします。そこの5人は吹奏楽部の新人なのですが、できたら演奏力を上げられたらと思います。」


デルリカは上機嫌に5人を見る。

「まあ可愛らしい子たちですわね。これは遊び甲斐がありそうですわ。」

そっと長道がデルリカを制する。

「遊ばないからね。ところで5人に聞きたいのですが、上達したいのは手に持ってる楽器で良いのですか?」


混乱中の少女たちは、返事もできずにコクコクうなずいた。


「その楽器は借りているもの?それとも自分の?」

少女たちの一人がなんとか声をだす。


「えっと・・・はい。入部したとき8万円も出して買いました。高かったです・・・。」

「そうですか。8万円だと初心者用ですね。でもその楽器を生涯の友にできるくらいパワーアップさせましょう。」


そういうと長道は、吹奏楽部の新人に近づくと手から魔法陣を出して楽器に呪文を唱える。

5人の楽器すべてにその行為をすると、申し訳なさそうに頭をかいた。


「では、いまからその楽器が襲い掛かってきますので倒してください。助っ人は何人いてもいいですが、楽器を倒すか本人が死ぬまで続きますので頑張ってくくださいね。」


「「「「「えええーーーーー」」」」」


吹奏楽部の女の子たち、涙目である。


松尾進は5人に対してテヘっと舌を出す。

「ごめん、言い忘れていた。その足元の魔法陣から出たら戦いが始まるから頑張ってこふー。」


松尾進は、チャンスがあったらこの『スキルが手に入る』召喚儀式を試そうと決めていた。

しかし、敵か自分が死ぬまで続くと言う説明が怖くて、実験台を求めていたのだ。


他人を平気で犠牲にする。

松尾進、恐ろしい男である。


「ど、どうしよう。もうこの魔法陣から出られないよ。」


怯える吹奏楽部の新人に、安西良子が歩み寄った。

「大丈夫、私たち全員で手伝うから1人ずつ倒していきましょう。私を信じて。あなた達の事は私が必ず守るから。」


いうなり、ポケットからタスキを出して肩にかけた。

それは収納タスキ。

異世界のスーパー便利グッズだ。


そこから、バットや日本刀や刺又をいくつも出す。

「さあ、みんなもこれで武装して戦うわよ!」


(なぜそんな武器を持ち歩いている?)

そう思っても、もう誰も口には出せない雰囲気。


幻想部のメンバーは諦めて武器を手にした。

試練を受ける女子生徒にもバットが手渡される。


顧問の山田光秀も日本刀を渡された。拒否しようとしたが、デルリカと目があたとき「おっしゃ、自分の力を見せてやる」と張り切ってしまった。

悲しい男である。

一応剣道5段だし強いはずだ。


安西良子が、まずは一人目に声をかける。

「じゃあ行くわ。あなたから魔法陣を出てきて。一緒に乗り越えましょう。」

「は、はい、お願いします。」


本当は魔法陣から出たくないのだが、もう嫌とは言えない空気になっていた。

空気を読んでしまう日本人の性質、悲しいね。


女子生徒は一歩魔法陣から出た。

すると手に持っていたフルートが光りだし、人の姿となる。


その姿を一言でいうのならば、ヤンキーなメイド。

手には釘バットを持って居る。


「ひいい」


女子生徒が悲鳴を上げるのは当然だろう。


ヤンキーメイドは釘バットを構えて、女子生徒を睨んだ。

「てめーがアタイのご主人様にふさわしいか、このバットで試してやらあ!」


いきなり殴りかかってきた。

連続で起こる非常識に、女子生徒は混乱で防御すらできない。


しかし、幻想部の面々と生徒会長は違った。

安西良子が、素早く女子生徒の前に割って入り、日本刀で釘バットをとめる。

「ヤンキーが生徒会長に勝てると思うなやボケがあぁぁ!」


ヤンキーより迫力がある生徒会長。それが安西良子。


その隙に、武田健二と庄司信也がヤンキーメイドの足を攻撃する。

その衝撃で、ヤンキーメイドは思わず数歩後ずさった。


「くそ、思たよりもやるじゃないのさ。」


さらに踏み込んで来ようとするヤンキーメイドに、松尾進がタックルをかけた。


ドゴッ


ドラえもんよりも丸いと言われる松尾進。

その体重を生かしたタックルは、ヤンキーメイドを壁まで吹き飛ばす。

そこを植木政子は刺又を使ってヤンキーメイドを押さえた。


動けないヤンキーメイドに、安西良子が日本刀を腰だめに構えて突っ込んだ。

「ヤンキーがなんぼのもんじゃーい!」


ズドス


ヤンキーメイドの胸に、深々と刀が突き刺さる。

いくら元がフルートだと言っても、どっからどう見ても人間にしか見えない相手に躊躇なく刀を突きさすとは・・・安西良子、ヤバイ人である。

リアルに噴き出た返り血を顔に浴びながら、安西良子は後ろで怯えている女子生徒に叫ぶ。


「はやく!今のうちにとどめを刺しなさい。」

「え、でも・・・。」

「早くしろ!とどめを刺さないなら私がお前を殺すぞ!」

「ひー、すいません。」


ドスのきいた安西良子の声にはじかれるように、女子生徒は血を吹いているヤンキーメイドの頭をバットで殴りつけた。

ドゴ、ドゴ、ドゴ、ドゴ


なんども殴っていると、ヤンキーメイドニヤリと笑う。

「やるじゃねーのさ。いいぜ、あんたをアタイの主人と認めてやるぜ。」


そういうと、光りながらフルートに姿を変えた。


カランカラン


フルートが床に落ちる。

みな、黙ってフルートを見つめた。


長道は落ちたフルートを拾うと、涙を流しながらバットを構えて硬直している女子生徒に渡す。


「これで、この精霊は君に協力してくれます。精霊が君の中にはいって協力してくれるから、もう一流の演奏者と同じことができますよ。このフルートは精霊の依り代だから手放さないでくださいね。」


女子生徒は、返り血で真っ赤になった手で震えながらフルートを受け取る。

するとデルリカが女子生徒に微笑みかけた。


「早速効果を試してほしいですわ。貴女の演奏をワタクシに聞かせてくださいな。」

女子生徒は困惑した。

「いえ、私はまだ音も出せないし楽譜も覚えていないんです。」

「大丈夫、精霊を信じて。さあ、吹いてみてください。」


いわれて、女子生徒は恐る恐るフルートに口をつける。

そこで女子生徒は驚いた。

(あれ、音が出る気がする。しかも何故か楽譜が頭に浮かぶ・・・)


そして見事なエーデルワイスを吹いたのだった。

曲が終わると、デルリカは嬉しそうに手を叩く。


「お上手ですわ。ワタクシ、こうして目の前で吹いてもらうのがとても好きですのよ。これからも頑張ってくださいね。」

「はい、ありがとうございます、女神様。」


美しいデルリカに優しく微笑みかけられ、女生徒は顔を赤く染めながらはにかんだ。


彼女に演奏力を与えたのは長道であるが、感謝されるのはデルリカ。

しかし長道も慣れたもので、まったく気にしない。


「では次の人いってみましょうか。今の要領で頑張ってください。相手は本気で殺しに来ますから気を付けてくださいね。」


そうして、こんな戦いがあと4回行われたのだった。


その戦いを満足そうに観戦したデルリカは、帰り際にちらりと山田光秀を見る。

「あの角刈りは、まったく役に立っていませんわね。」


そう言って光となって消えて行った。


デルリカからの評価が一段下がった。そのことに気づいていない山田光秀であった。




ちなみに、この日の試練を無事乗り越えた5人は音楽室に帰るとすぐに演奏して見せた。

顧問の先生も先輩たちもめっちゃくちゃ驚く。


先輩たちは必死に「なぜ急にうまくなったのか」を聞き出そうとしたが、5人は口をそろえて同じことを言うばかりだった。


「幻想部に異世界の女神さまを召喚してもらって、音楽の精霊を呼び出してまらいました。そのあと音楽の精霊に主人として認めてもらうために、殺し合いをして屈服させたからです。」


先輩たちは、当然誰も信じなかったのは言うまでもない。


だがプロ並みの演奏力を身に着けた5人は、この後あらゆるコンテストで賞を総なめにするのであった。

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