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RanKinG  作者: 燐音
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始まりのゲーム

 額を何度もノックする冷たい感触に自分の意識は目覚めた。

 ゆっくりと目蓋を開いてみれば、薄汚い知らない天井が視界に映る。

 状況確認のためにひとまず身を起こそうとするも筋肉痛のようで身体が重く、もしくは何日も眠り続けていたようなそんな感覚がした。

 身を起こしてまず見えたのが揺れる一筋のロウソクとその先には出られないようになのか鉄格子が閉まっていた。

 

 意識は何処から失っていたのか。 なぜ意識を失っていたのか。

 確か自分は……と記憶を漁ろうと目を瞑り考える。

 しかし、覚えている直前の記憶は彼女とのデートで集合場所に向かっていたというところまでだ。

 なぜ電車に乗っていただけの自分が意識を失い、こんな牢屋のような不気味なところにいるかなどはまったくもって分からない。


 これは誘拐なのでは。

 そのように考えるも、休日で人も多い電車の中でそう堂々とそんな行為ができるはずがない。 できたとして大騒ぎになって警察が駆けつけるまで時間の問題だろう。 

 集団的な誘拐であることも頭には入れようとしたのだがそんなドラマや昔の時代でもあるまい。

 こんな情報が少ない状況下においても、冷静に推理する自分に少し安堵のため息を漏らしては、辺りを散策しようと寝ていたベッドから退こうとした。


 しかし、退こうとした瞬間。

 腕につけられた黒いリストバンドの刻む数に冷静な額から嫌な予感を知らせる汗が流れた。


 いつのまにつけられたのか、というのが問題なのではない。 ここで重要なのはこの数字が何を示しているのかだ。

 【09:47】]という右の数値が徐々に46、45と減っている。

 あきらかにこれは何かのタイムリミットだ。

 何かの悪いドッキリか、それとも夢であるのかなど現実逃避な思考に浸るより先に自分の身の危険を感じた身体は行動を起こしていた。


「なんだよ、これ!? 此処から出せよ!!」


 がしんがしん、と牢屋のような錆付いた鉄格子を鷲のように掴んでは何度も揺らす。

 洞窟のように響く声だが返答する返事はない。

 それでも危機的状況な状態に叫んで助けを請う。

 けれども、誰もいないかのようであり、このまま何もできなく死んでしまうのかと思い込み、呼吸が荒くなっていく。


 服のタグみたいに簡単に腕力だけで腕から取り外すことができないほどの強度であり、時間は7分を切っていた。

 この時計を壊せばと咄嗟に思いつき、鉄格子に叩きつけようとするももし爆弾だったら。 そんな予想が余計に行動を慎重にさせてしまう。

 

 何かないかと自身のズボンを探るとポケットからは、彼女とお揃いのイルカのストラップが付いた自分の携帯が入っていた。

 誘拐されていた場合だと、普通なら携帯など持ち物すべては取り上げておくべきだろうが、ラッキーだ。 これで助けを呼べる。 

 と思ったが、携帯の右上、電波の表示は圏外を示していた。

 5分を切って助かるのかなどより、まだこんなことで諦めるものかと自分の身体がアドレナリンを分泌させえて次なる策に動く。

 一か八か。 ぎりぎりまで鉄格子から腕を伸ばしては片っ端から電話を掛けていく。

 機器のスピーカーから鳴る『お掛けになった電話は……』とお決まりのフレーズを最後まで聞くことはなく、次へと行動を移す。

 有難いことに充電はまだあまっているが、時間がない。


『はいはいー、珍しいな。 お前から電話してくるなんて』

「春斗! 助けてくれ! 誘拐されたみたいなんだ!!」


 やっと知人に連絡が繋がった。

 リミットも限られているために必死に置かれている状態を伝えようと息継ぎをしている時間など勿体無いと言わんばかりの早い口の動きで話す。


 しかし、そんな焦りもあってからか片手で操作していたスマートフォンが指先から零れ落ちた。


 地面に落下したスマートフォンは運の悪いことに手では届かないほど遠くに行ってしまい、更に落下の衝撃かそれとも電波が悪くなったのか、此方から声を投げてもうんともすんとも言わなくなった。

 

 最悪だ。 最後の希望が牢の奥、手の届かない方へと転がり落ちてしまった。

 がっくしと膝から崩れ、その悔しさに床に拳を叩きつける。

 死というものは予期もしないところで起きるとは誰かが言ってたが、それにしてはこの結末はあんまりではないか。

 募金に積極ではないが協力したり、半ば強制ではあったが近くの川のゴミ拾いだって。

 信号が赤な時は必ず渡らないなんていう人間なんて小学生ぐらいまでで、赤信号を無視したところで事故にさえならなければ良いはずだ。

 こんなで人生が終結してしまのは納得がいかない。


 どんなに御託を並べようが、どんなに神様に祈ろうが、数字の変動は刻一刻とタイムリミットという名の人生のゲームオーバーを示すかのようだ。

 犯人はなんでこんなタイムリミットを……。

 ロウソクの蝋もあとわずかなようで、灯る火も小さくなって揺れている。


「……これはもしや脱出ゲーム、なのか……?」


 始末するなら始末をすればいいのに、こうも閉じ込めて電波もほとんど届かない状態でこんな時間制限を与えられて、誰も見張りがいない。

 冗談なドッキリなら何もせずにいいのだが、と安易な甘い願望は、もしもこの時間が費えた時に起こることの可能性も考慮した結果、脱出するのが一番だと結論に至った。

 ただ死ぬよりも、まだやれることがあるなら。


「誰に仕組まれたんだとしたら、そのゲーム受けて立ってやろうじゃねか」



 【3:37】

 



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