花籠
私は有名なスイーツ店のフルーツタルトを取るか、スーパーの安いフルーツタルトを取るか悩んでいた。
どうしてそんな事で悩む必要があるのか、と人は言い、しかし答えは二つに分かれるだろう。
実はこういう事だ。
彼女の誕生日の前日に「何が食べたい?」と聞いた所、彼女は「フルーツタルトが食べたい」と言ったのだ。
私はクッキーやビスケットなどを自作して毎年渡していたが、果物が入ったモノとなると少しキツい。近年は果物の値段が高騰しているし、他の材料も結構高い。失敗する可能性もある。ここまで来るとただ怯えている様に思われるが、そもそもの話お金が足りない。
学生である私にとって、自作のフルーツタルトはあまりに手強い相手だった。なので、諦めて既製品を買う事にしたのだ。
悩んでいるうちにも、陽はゆっくりと沈んでいく。
有名店のフルーツタルトを取れば、私の有り金が消し飛ぶ代わりにとびきり美味しいモノが手に入る。
スーパーのフルーツタルトを取れば、お金の消費も少なくて済むし、適当なラッピングをすれば「自分が作った」と誤魔化せるかもしれない。
有名なスイーツ店は、18時まで開いている。そして、今は17時10分。
決断の時は来た。
私は自転車を急いで走らせる。彼女にあげるなら、上等なモノの方がいいのだ。多分、自分で作ったなんて言えば友達なのに重いと言われるだろう。買ったモノに「愛してる」とか何とか書いたメッセージカードを添える。これぐらいなら、まだ大丈夫だろう。
私は、彼女の事が恋愛的な意味で好きだったのだ。
フルーツタルトを購入した私は、続いて彼女の家に向かう。インターホンを押すとすぐに彼女が出てきた。いつもなら彼女の母親か父親が出てくるのだが、今日は一人らしい。
「息切れしてるけど、走ってきたの?」
「うん。それよりさ……お誕生日おめでとう。……いいとこで買ってきたよ」
可愛らしい箱に入ったフルーツタルトを渡すと、彼女は目を輝かせた。
「うわぁ……ありがとう!」
「……今日は用事あるから、これで。また明日ね」
逃げる様にドアを閉めて、私は自転車に跨がった。
メッセージカードには、小さい文字でこう書いた。
……『恋愛的な意味で好きだから、今までお菓子を自作していました』、と。
ここらが踏ん切りの付け時だと思ったのだ。フラれれば、来年からは既製品になる。
……彼女は、どちらを選ぶだろうか。