子連れの魔王様
魔王は悩んでいた。
本当なら再び世界を征服したい。しかしそれは出来ない。
何故なら、最近開発したハイリザードの繁殖力があまりに高過ぎて、要塞から出られなくなってしまったからだ。
魔王が生み出したモンスターのうち何匹かは立派に育ち、この要塞を巣立っていった。いつか地上に来る命令を、静かに待っているに違いない。
魔王は更に考えた。
時間は刻々と過ぎていく。我はどうすればいいのだ。
研究室で生まれた可愛い我が子を手に掛けるのは、とても苦しい事である。
しかしこのハイリザードをどうにかしなければ、世界を征服する事が出来ない。
……でも、征服した後で何をすればいいのだろう?我が生み出したモンスター達は、その後どの様に暮らしていくのだろう?
周囲が騒ぎ始めた。
他のモンスター達も要塞から出られなくなり、ハイリザードが近づく度に怯えていたのだ。
「おかーさんたすけてぇ!」
「かあちゃーん!」
ひとつ目オーク、ゴブリンが泣き喚いている。
魔王は決めた。
「キミ達は地上に行って、お兄ちゃんやお姉ちゃんと一緒に住処を作りなさい」
重たい扉が開かれ、魔王は地上への道を指す。元気なハイリザード達は、すたこらと走っていった。
魔王はそれを微笑みながら見送る。
やがて世界は魔王の生み出したモンスターに溢れ、老いた魔王は彼らに惜しまれながら死んだ。
花でいっぱいになった棺桶を囲み、モンスター達は魔王について一様にこう語っていた。
魔王は、どんな生き物よりも優しくて強かった。我々にとって最高の母親だった、と。