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西の森に尋ね人

この話で終わらせようと思いましたが無理でした。まだ続きます。

コンコンとアレクサンドラの家を叩く者がいた。太陽も上っていない朝だが、アドラはこの時間しか取れない薬草を取って丁度帰った所だった。ハルジオンがまた男に振られて泣きながら自分の所に来たのかと思って、誰か確認もせずドアを開けてしまった。


「・・・。誰?」

「俺?イエス・キリスト」

「ふざけてると蛇に食わせるわよ」

「ちょ、まてって」


男は、両手を上げて降伏のポーズを取った。


「誰よ。あなた」

「俺は、君に願い事しにきた者だけど」


アドラはあの、暗い森を抜けてきた男の頭から足の先を確認し、悪魔ではないと分かったら「いいわ。入って」と言って家に通した。


男は、アドラの家の中をぐるりと見渡し「案外、可愛いものがいっぱいあるんだな」と言った。


「人間が勝手に魔女は怖くて暗っらい所に住んでると思ってるだけでしょ」

「そんなもんか?」

「あなた、本当にここに何しに来たの?」


今までアドラの家に来た人間は、顔を真っ青にしてアドラを恐れて終始ブルブル震えているか、家にすら入らない者もいたのに、この男は涼しい顔して家の中にある小物を持ち上げて中身をジッと見たり、テーブルの上にあるクッキーを勝手に摘んで自分の口に放り込んでいる。


「お、これうめえな。お前が作ったのか?」


アドラは怒りに拳をギュッと作り男を睨みつけた。


「おー怖い怖い」


全然怖がっているようには見えない。


「何しに来たのよ!!!用がないなら、出て行きなさい」

「用ならある」

「言ってみなさいよ。不老不死にしてくれなんて言ったら、この場であなたを薪にして火にくべてやるんだから」

「そう、急かすなよ」


男はテーブルの備え付けの椅子に座って、薬草取りから帰ってきたアドラが淹れたカモミールティーをずずずっと飲んだ。


「俺の、恋人にならないか?」

「いいわ。あなたは薪にしても意味がないようね。塵にして差し上げるわ」

「そうかっかすんなよ。俺だって、事情ってもんがあんだよ」

「いいわ、塵にする前にその事情って言うものを聞いてあげる」

「山奥の魔女様はしらないようだが、フランスが神聖ローマ帝国に侵攻してから戦争が止まらないんだ。簡単に言うと、帝王はあんたに助太刀してほしいんだとよ」

「それで、どうして私が恋人になる必要があるのよ。人間のどんぱちなんて私には関係のないことだわ」


アドラは赤いローブを翻して家の奥にあるキッチンに引っ込もうとすると、男に腕を掴まれて、全身に電流が駆け巡った感覚を感じた。アドラは目を大きくし吃驚した様子でその腕を振りほどいた。そして、男に捕まれた腕を反対の手で押さえて逃げ腰になっている。


「お前…処女か?」

「そそそ、そ、そんなわけないでしょう?!」

「図星か。魔女は全員お前みたいなのか?」

「ち、ちがう!近寄らないで!」


男は、一歩ずつ確実にアドラに近寄ってくる。


「近寄ったら焼け焦げにしてやるんだから!」

「俺は別にあんたに何かしたわけでもないのにか?あんた別に怖い魔女じゃないんだろ?」

「そ、そうよ!…そうじゃない!魔女の尊厳は必要よ!」


アドラは指で魔法を発動させると壁にかかっていた紐が宙を浮き男の体をぐるぐると巻いた。


「…おい。これはないだろ」

「あ、あ、あああ、あなたが近寄るからよ!」

「まあ、いいや。それで、俺の願い聞き入れてくれるのかそうじゃないのか言ってくれねーか?」

「何よそれ!恋人になるっていうのなら却下よ!恋人にして手懐けようたってそうわいかないわ!」


男は、はあと溜息をつくと床にぺたり座り込んで、アドラを見上げた。


「じゃあ、帝王の願いはどうなんだ」

「それも無しに決まってるじゃない!本人が来なさいよ!それに願いを叶える為にその場で対価を貰っているわ」

「金か?」

「そんな人間が作り出したお金なんていらないわよ」

「じゃあ?」

「願いによって違うわ。そうね…最近来た人間の中には彼女の命を生き返らせて欲しいっていう人間もいたわ」

「あんた、人間を生き返らせれるのか?」

「そんな、大それたことは出来ないわ」

「私が出来るのは、死んで次の日の太陽の光を浴びてない人間の死体に魂を戻すことだけよ。人間は、時間がたつと魂が空気と同化して無くなって行くわ。イエスはそう考えなかったようだけど、あれだって人間だたもの。死後の世界には何もないなんて知らないのよ。だから、対価として彼女を蘇らせる代わりに男の魂を頂いたわ」

「残酷だな」

「残酷?そんなわけないでしょう。自然の摂理から離れた事を行ったら、それこそ私の身に危険が及ぶわ。対価として不十分なくらいよ。あの男の魂は随分汚れていたわ。浄化するのに時間がかかった。それに、私は別に彼女の命を蘇らせなくったっていいもの。選んだのはあの男よ。悪魔と契約しなかっただけ良かったわね。魂がまだある状態で体ごと食べられては、どう頑張っても生まれ変われないもの。自然に溶け込めるから人間は生まれ変われるのよ。彼の願いを叶え、その代わり摂理を犯した罰として汚れたあの男の魂を浄化して自然に返した。あの場であの男が、彼女を置いて逃げたなら、悪魔に見つかって食べられるか、汚れた魂は自分を殺して自然に帰れなくなって終わりよ」

「それじゃあ、あんたには何の得にもなってないだろ」

「魔女なんて、そんなものよ。人間と一緒にしないで。私利私欲で魔法を使う魔女はごく一部よ。だから、白魔女も黒魔女も一緒くたにされるのよ。全く、いい迷惑だわ。魔女狩りにあって無残に殺された仲間の魔女を思い出すと心が張り裂けそうよ」


ふんと鼻息を出して腕を組んだアドラを見つめる男の顔は珍獣を見つけた少年のようだった。


「じゃあ、俺の願いを聞き入れてくれ」


朝日がだんだんと顔を出し天井の小窓から差す光が彼の黒い髪を輝かせた。


「俺の願いは・・・呪いを解いてもらいたい」

「呪い?」


アドラは確認するように男の額に魔法陣を発動させた。


「これ・・・どこかで見た陣だわ・・・もしかして、イザベラ?」

「なんで知ってんだその名前」

「友達だからよ」

「嘘だろ・・・」

「本当よ。あなた、この呪い結構古いけどいつからなの?」

「俺が、6つの時だ。でも、友達って可笑しいだろ…」

「別に可笑しくないわ。人間より魔女は老いるのが遅いの。時間の感覚も違う。長い時間の中で生きてるのよ。喋らないでじっとして」


アドラをもう一度人差し指をちょんと男の額に触れ陣を消した。


「そういえば…イザベラが一度だけ人間の王に仕えたことがあるって言っていたわ」


イザベラは魔法研究が今に始まったことではない。昔、一度だけ、ローマの王宮の地下に流れる聖水にしか生えない植物を研究するために、代わりに王に仕えたことがあると言った。しかし、植物の生える条件を知って半年もしないうちに王宮から姿を消した。


「あなたの呪い結構強いわ。あのイザベラはこういった拘束魔法が一番得意なの」


男の呪いは、王に従う強固な呪いだ。王を決して裏切ることも出来ず、支持されたままに動く操り人形になる呪い。


「解けるのか?」

「ええ」

「そうだよな。無理だよな…は?」

「解けるわよ」

男は、俯いていた顔を勢いよくあげてアドラを見上げた。


「本当か?」

「呪いは古くて強いけど、旧世代の魔法よ。最近のイザベラの拘束魔法だったら少し時間が掛かったけどこれなら簡単よ」


あの、地獄のようだった魔法の訓練に明け暮れた日々に習ったものだ。


「あなたは、私に何をくれるの?」

「対価か?」

「ええ」

「俺の魂をやるよ」

「釣り合わないわ。もっと、軽いもの」

「いい、俺はあんたに俺の魂をあげてもいいって思った」

「気でも触れたの?」

「そんなわけないだろ。俺はいたって真面目だ」

「あなたの魂は別に汚れていないわ。普通拘束魔法に耐えられなかった人間は必ずと言っていいほど汚れるのにあなたは違う。汚れてない魂を取り出すことは魔女にって至難の業よ。出来ないわ」

「ほかに方法はないのか?」

「あ、あるけど・・・その・・・」


アドラは気まずそうに手をもじもじと弄っている。


「なんだよ」


ごにょりと何か呟いたが男の耳には聞こえなかった。


「聞こえねえ」

「だーかーら!キスって言ってるでしょ!二度も言わせないでよ!」

「なんだキスかよ」

「はあ!?なんだとは何よ!あなた魔女のキスを何だと思っているの!?」

「俺は魔女の友達はいなかったから知らないに決まってんだろ」

「そ、それもそうね」


アドラは口に溜まったつばを飲み込んで続けた。


「魔女の象徴は自由。そして、魔女のキスはキスした者に自由を奪われるという事よ。その時点で、魔女はキスした者に全てを捧げる事になる。魔法も、体も全て…お互いの魂を交換し合うという事」

「魔女は処女じゃないと駄目なんだろ?体も捧げたらその時点で魔女じゃなくなるだろ。もし、男が嫌になって自分の魂をもとに戻したかったらどうするんだよ。」

「だ、誰よそんなこと言ってる人間!魔女が処女を失って魔女でなくなったらこの世に魔女がこんなにいるわけないでしょ!そんなの変態牧師が言ってるだけよ!牧師は揃いも揃って変態しかいないわ!異国の妖怪河童と一緒ね。嘘しか言わないわ」

「じゃあ、俺の願い聞いてくれよ」

「嫌よ!あんたの者になるなんて真っ平ごめんよ。あなたの魂最初に見た時から可笑しいのよ!得体がしれない」


アドラは指で宙に魔法陣を発動させ、男の縄を解くと、ドアを開けて外に投げ飛ばした。勢いよく家のドアを閉めた。


「もう、二度とここにはこないで!」



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