物語のはじまり
時代は西暦2200年を物語の開始としており、この時代には無数のスペースコロニーが建造され、地球の外でも多数の人間が暮らしていました。
しかし、人類の夢であるワープ航法は発明されておらず、このため、太陽系の外の調査はさほど進んでいません。人類の活動の拠点は地球周辺に限られます。
これは、広大な宇宙の中では極一部にしかすぎません。
そして物語の開始となる2200年10月7日。
フランスの凱旋門上空に、未知の巨大生物が出現します。
後に『エネルギーで組成された化け物』(EOM)と言う名がつけられたその3体の異形の怪物は、深海生物を思わせる半透明の体に無数の光源を持つという出で立ちで、全長8メートルを超える巨体を、重力を無視するかのように空中に漂わせていました。
そしてこの3体の化け物の出現が、人類混迷の時代の幕開けでした。
EOMは、人類が今だなし得ていないワープ能力を持っていました。
彼らは光の速さですら何万年もかかる距離を、一瞬とも言える時間で移動することができます。この能力によって、フランスに現れた3体のEOMに続いて、続々と彼らの仲間たちがワープして現れ、空を覆いつくし人々を襲います。
当然のように軍隊が出動し、実弾兵器、レーザー、化学兵器、ひいては原爆――様々な兵器の使用が試みられますが、EOMには意味をなしませんでした。
彼らは無敵だったのです。
『AM特性』と呼ばれる無敵性。
『誘致性』と呼ばれるワープ能力を駆使して援軍を呼び込む増殖性。
この2つの特性を併せ持つ『化け物』の襲来は、後にウイルスの集団感染に例えられて、『EOMパンデミック』と呼ばれます。
そしてその病巣は、人類を食い破りました。
地球上にEOMが溢れ、人類の住める場所は地上のどこにも存在しなくなったのです。
生き残った数少ない人類は、当時宇宙に打ち上げられていた15機のスペースコロニーへと避難をしました。
ところがそこすら安住の地ではなく、宇宙空間でも活動が可能なEOMによって3つのコロニーが破壊されます。
絶望の時代。
それを打ち破ったのは、エリュダイト粒子と呼ばれる未知の粒子の発見です。
このエリュダイト粒子を武器として使用する機動兵器『アマルガム』の開発によって、人類はEOMへの反撃の狼煙を上げます。エリュダイト粒子は、EOMにとって致死性の猛毒と呼ばれるほどの威力を発揮したのです。
本作ではプレイヤーは、この『アマルガム』のパイロットとなり、EOMと戦います。
『アマルガム』の基本性能は高く、パイロットの腕次第では、1機で数体のEOMと渡り合うことも可能です。
しかし――パイロットには、常に付きまとう危険と、それを打ち破りえる諸刃の剣となる切り札があります。
常に付きまとう危険の一つ。それはEOMのワープ能力です。
パイロットはEOMを倒すために派遣され、時に宇宙で、時に地上で、EOMと戦います。
ただしEOM達は先述した『誘致性』と呼ばれる能力によって仲間をいずこともなく呼び寄せます。
この出現を事前に予測することは難しく、時に思いもよらない大群が、思いもよらないタイミングで、一度に転移してくることがあります。
この出現タイミングと規模は、ゲームを支配するゲームマスターですら完全に予測することはできません。
パイロット達は、時に自分たちの戦力では対処できないほどの数のEOMに囲まれ、絶望的な戦いを強いられます。
ただし、彼らにはそれらを打開する切り札があります。
それが『サブパッケージ』と呼ばれる緊急兵装です。
それらは、三次元空間上に時に剣を、槍を、盾を無数に生み出すことができる魔法のような切り札です。無数のEOMに囲まれたとしても、それを貫く刃を生み出し、攻撃を防ぐ障壁を張ることで、パイロットは死中に活路を見出す事が出来ます。
ただ――この『サブパッケージ』には大きな副作用があります。
それがパイロットが常に抱える、もう一つの危険性。
『フラクタル・イド』と呼ばれる毒です。
EOMに特効性のあるエリュダイト粒子ですが、非常に不安定な粒子であるエリュダイト粒子を扱うためには、『人道的に反する』として封印されていた技術の一つ『フラクタル・ドライブ』を利用する他ありませんでした。
『アマルガム』にはこの『フラクタル・ドライブ』が搭載されています。
『フラクタル・ドライブ』の仕組みをごくごく簡単に言えば、人間の脳とコンピュータを接続し、人間の脳の無意識下部を利用して高速の演算を行うシステムです。
一面だけを見ると非常に便利なこの技術ですが、『人道的に反する』として封印された理由の一つに、使用者の脳に悪影響を与えることが挙げられています。
この悪影響は度を超すと、身体機能の麻痺や人格の崩壊を招き、最悪死に至ります。これが先ほど上げたパイロットを蝕む毒『フラクタル・イド』です。
『アマルガム』を通常の範囲で使用する限り、この毒性は大したことはありません。
ただし、前述したパイロットの切り札である『サブパッケージ』の使用は、パイロットの脳に大きなダメージを与えます。
よって、激戦を潜り抜けたパイロットほど疲弊し、時に若くして退役を余儀なくされたり、ひどい時には精神病棟送り、あるいは脳が耐えきれず死に至ります。
『サブパッケージ』は絶望的な状況を打開する切り札であると同時に、パイロットを喰らい潰す諸刃の剣でもあるのです。
パイロットの誰しもが、戦場に立つ以上『サブパッケージ』を使用する覚悟を決めながら、同時にその時を恐れています。
本作のタイトル『フラクタル・エフェクト』とは、そんなパイロット達が誰とも無しに畏れを交えて口ずさむようになった、パイロットが己の命を燃え上がらせて無数の『サブパッケージ』を投影して煌びやかな光のエフェクトを撒き散らす様。
数奇な結末からとられています。
※本作における『フラクタル』とは、fraction(破片)からの造語で、『結果が幾通りも予測できる様』、あるいは『因果が複雑に絡み合って結果の予想が困難な様』を指す言葉になります。転じて『予測不可能な』『先の見えない』という意味で使われます。
フラクタル・エフェクトはパイロットの切り札ですが、それを使ったからと言って大群のEOMを倒せるとは限らず、例え倒したとしてもパイロットはもう今までの日常を歩むことはできないかもしれない――
フラクタル・エフェクトという言葉は、そういった事実を踏まえて『最後の切り札』に頼りきらないよう、パイロット達が自戒の意味をこめて呼び出したのが始まりと言われています。