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真っ暗闇の中意識が目覚める。
体の機能は永年眠ってはいたが、意識は眠ってはいなかった。
永遠と思える時の中で、シャルルとの思い出を巡っていた。
楽しい思い出を思い出し、記憶の中のシャルルを抱き寄せる。
所々途切れる意識の中で、自分が最早どれくらい眠ったり起きたりしているのかを忘れた。
最初は怒りと憎しみが支配していたが、それすらもどうでも良くなった。
自分は死なずこのまま一生この場で生きていくのかと考えた時、発狂しそうになるが、発狂する体の機関が起きてないため発狂することすら出来ない。
唯一シャルルの思い出と、たまに話しかけるメテルディウスとの会話がシルバーの意識を保させていた。
(死にたいけど死ねないってこれは一種の罰なのかな?)
『そう悲観するな。封印とていつかはとける。その時にまた暴れればよい。私はまた眠る。』
こんな会話を30年に1度くらいしながら、シルバーは500年の月日を意識だけで生きてきた。
しかしそんな日々がに急に終わりを迎える。
10年程眠りに着いていた意識が何かの力を察知して目が覚める。
シャルル!?
シャルルが生きているはずはない。
この手で看取って、今ではシルバーの体の一部となっている。
しかしシャルルと同じ感覚を持つ者が近くにいる。
何処だ?
意識を全力で解放し辺りを探る。
しかし今のシルバーの封印された力では外の世界を見ることは出来ない。
初めてこの封印が煩わしく思ったが、どうしようもない。
暫くして急に近くなるシャルルを感じたと思ったその時、力が解放されるのを感じた!
直ぐに封印されていた海底洞窟から飛び出し、海面に向かう!
見上げた上には少女の影。
なぜか咄嗟に抱えて少女を助けた。
少女は海面に少し打ち付けられた衝撃で意識が朦朧としていた。
シルバーはその少女の顔を見る。
シャルル!!
そんな筈は無いのだ!
シャルルは死んだ。
しかし、まるでシャルルの生き写しかの様な少女が目の前にいる。
シルバーの胸は高鳴った!
高鳴ったと言うより爆発寸前、張り裂けそうな気持ちが溢れ出す!
「シャルルなのかい??」
この言葉にまるで安心するかの様に少女は意識を手放す。
シルバーは崖の上を見上げる。
上には三人の男。
シルバーの中の怒りが溢れ出す!!
またしてもシャルルの命を奪うと言うのか!
時が過ぎてもまた自身に悲しみを与えるのか!!
「殺してやるよ!」
悪魔の様な笑みを浮かべ、一瞬で盗賊の前に転移する!
「な、ななななんだてめーは!?」
急に現れた悪魔の様な笑みの少年に盗賊は飛び上がる!
そして慌てて武器を構える。
「うるさい、死ね!」
シルバーが手の平を向け、魔力を貯める。
そして魔法を放とうとした瞬間、少女の手がシルバーの腕を掴む。
「だめ・・。」
そう言うとまた少女は意識を手放す。
ふと魔力を納め盗賊を見る。
盗賊は圧倒的なシルバーの殺気に当てられて気絶している。
「シャルルに感謝しな。」
そう言うとシルバーは転移する。
それは勇者がやってくる1分前の出来事であった。
ーーーー
転移した先は小さな町だった。
ここはシルバーがエルドラドに引き取られるまで育った所だ。
最も、当時はもっと小さな村だったが、長年の年月を経て小さいながらも町まで規模が大きくなっていた。
「ここも変わったね。もうないと思ってたけどまだあるとは。」
小さく笑いシルバーは町に入ろうとするが、衛兵から止められる。
「君は新顔だな。その娘はなんだ?」
村の時はすんなり入れたが、町になるとやはり警備が厳しくなる。
シルバーは笑顔で衛兵を相手取る。
「入れておくれ。」
「は!了解しました。」
シルバーの言葉に衛兵は直ぐに門をあける。
シルバーは精神操作の魔法を使ったのだ。
最早この時代には存在しない古代魔法は、争いを生むことなく、すんなりと町にシルバーを向かい入れた。
「取り合えず宿を探さないとね。」
シルバーはそう言うと宿を探し始める。
町の様子は500年前の町と然程変わりはなく、あまり時代の発展は見られない。
レンガ造りの家は、中世のヨーロッパの様な街並みだ。
シルバー自身、500年眠っていた認識があり、変わり行く世界を思い少し不安もあったが、余りに変わらない世界に少し安心していた。
少し調べた所、通貨の価値もあまり変動は無く、シルバーの生きていた時代の常識がそのまま通じる事が分かった。