その3
「だが」
御歌土はその手を大きく横へ振り抜いた。
ここが正念場だ、と少女は考えていた。
けれど、これまでの話を受け止めてくれた──少なくとも自分にはそう見えた──皆であれば、必ずや理解を示してくれる。そして自分に協力し、共に未来に立ち向かう"級友"となってくれるはず。
その信念をもって、少女は続く言葉を放った。
「だが、すべてが自由というわけではない。私は四天院の一粒種だ。しかし世に私の存在は世に知悉されてはおらぬ。それはなぜか。無論このピアスを持つがためである。それゆえ、私の力は限定的だ。これだけの計画を無条件で成すには至らなかった。ゆえにそなたらにもささやかな義務が課される」
講堂内にざわめきが広がった。御歌土は再度腕を横に一振りし、言葉を継ぐ。
「一つは許可なく島の外へ出ぬこと。もとより絶海の孤島ゆえ、みだりに本土へ戻れるものでもないが。そしてもう一つ。こちらが重要だ」
そして少女は、異論を挟む余地を与えず、最後まで言い切った。
「二つ目の義務とは、この学園の地下の"あるもの"が原因で必然的に生じるトラブルに、全力をもって対抗すること。以上である」
◇
「あるもの……?」
皆が口々にそう呟いた。講堂内の騒ぎは一時的に収まっている。"あるもの"とやらが何なのか見当がつかないため、どう反応してよいかわからないのだ。
だが御歌土は、「そうだ」と意を得た体で頷いた。
「それは、残念ながら口で説明して理解を得られるものではない。しかし"活動"の周期はある程度一定パターンに基づいているため、"次"に合わせるようにしてこの場を設けた次第である」
「あの……それはどういう意味で?」
比較的先頭近くにいた気弱そうな男が、片手を持ち上げて問うた。御歌土は再度頷き、
「うむ。そろそろ"現われる"はずだ。皆の者、覚悟するがよい!」
そう言って、少女が差し上げた手を振り下ろした瞬間──講堂で"あること"が起きた。