その2
「これまでそなたたちは、力持てるがゆえに疎まれ、忌避され尽くしてきた。保菌者などというあたかも疫病の宿主であるかのごとき蔑称で呼ばれ、国際条約によってそれを隠すことを許されず、一般市民からの怖れと蔑みの目に晒され続けてきた。それが力無き者たちの畏怖の感情より生ずるものだと承知しつつも、世に僅か数千足らずの我らの声はあまりにも小さい。一般市民の権益を守るため、我ら少数の民は多くの権利を奪われた。この場に集められた大半は日本の民、それも高校生の年齢の若者たちだ。だがそなたらは真に健常な学生で有り得たか? 幾度と無く何度と無く力を私的に行使せぬことを鸚鵡のごとく叫ばされ、一方では特別試験という名の踏み絵によって持てるすべての力を暴かれ、一定以上の能力値が認められた際にはそれと示す無骨なピアスの装着が義務付けられる。寝食はおろか入浴時すら外すことの許されぬそれは、最早身に刻まれた烙印だ。刺青だ。かつて大陸では罪人に刺青を施す刑罰を鯨刑と呼んだが、何らの罪を犯しておらぬ者が等しき恥辱を受けねばならぬ、そのような謂われがどこにある? この場にもピアスの装着者は幾人も見受けられるが、そなたらの学生生活はどうであったか? 友と語らうひとときは持ち得たか、恋に部活に邁進する日々を培い得たか。おそらく大半の者はこう応えるだろう、そんなものがあったはずがないと」
だがそれも、もはや昨日までの話だ──御歌土はそう確信する。
「力持ちし者、自らの持つ"人との違い"を持て余す者たちよ。そなたらの枷は、この島には存在しない。世界が定めた忌々しい能力者への規正法は、ここでは図書室の膨大な書物の一節以上の意味を持たぬ。そなたらはこの地にて存分に力を振るうことが許される。太陽の下、誰憚ることなく己の生来備わった力を曝け出すことが出来る。無論問題も起きよう、障りも生じよう。だが臆するな。そなたらの箱庭にはこの四天院御歌土がおる。友として存在しておる。建物を破壊した? よろしい建て直そう。人を傷付けた? よろしい四天院の総力を以って治療しよう。遠慮は無用、怯えるな躊躇うな。そなたらはそなたらの思うがままに時を過ごせば良いのだ。
そなたたちがこの島で過ごす期間は3年。そう、高等学校教育と同じ期間だと言えばわかるであろう。ここは箱庭である。そしてそなたらの高校でもある。ここに私は、四天院の名をもって能力者たち専用の高校の設立を宣言する。私は肩書きとしては理事長ということになるが、同時に一生徒でもある。つまり──あえて本音を語ろう。私はここで、そなたらと共に高校生活を送りたい。その我が侭のためだけにこの計画を立ち上げた。
だがこの我が侭は一人では成り立たぬものだ。権力に財力を加えてもまだ足りぬ。そこにはそなたたちの存在が必要だ。それも、対等の友として在ってほしいと思っている。この箱庭を作ったのは私だが、所有者はそなたたち全員なのだということを承知願いたい──」
◇
「なるほどな」
司がぽつりと呟いた。
御歌土の口上はいまだ続いている。勢いまかせの、贔屓目に見ても回りくどい説法だったが、なんとか意味は掴めた。
──つまりはあいつは、自分の居場所を作りたかったのか。
世間から忌み嫌われ続けている異能者達。いかな四天院家の一員であろうと、御歌土もその一人として言われ無き差別を受けてきたはずだ。むしろ四天院の名があるからこそ、いっそう迫害は強いものであったかもしれない。
だから──少女はそれを打破するために、自らの権力すべてを駆使し、この"場"を作った。
それは、正直に言って司にも理解出来ることだった。共感を抱かずにはいられないことだった。
見れば、周囲の者達の中にも、ある種の賛意を御歌土に対し示しかけている者達がいる。拉致紛いの呆れた方法で集められたという点に問題はあれど、それだけ皆の現状に対する不満は強かったということだろう。その意味で、御歌土の作る"高校"に一定の価値がある点は、認めざるを得なかった。
けどな──と司は思う。
「みか。なにせお前のやることだ。……それだけで済むわけないよな?」
「だよねえ」
隣の少女が、眉尻を下げた笑みで司の言葉を拾った。
「うん、まあ、しょうがないけど。でもやっぱり、前みたいに司ちゃんがフォローすることになるのかな?」
「嫌なこと云うな。というかだな、かいな。十年ぶりだぞ? 十年ぶりに会った幼馴染にこの仕打ち。いっくら"あの"みかだからって、簡単に許せるかっつの」
「許すこと前提になっちゃってるね」
かいなと呼ばれた少女が、風に吹かれるタンポポのように体を揺らして笑った。司がそんなもう一人の幼馴染に「やかましい」と毒づく間に、御歌土の演説が次の段階に差し掛かった。
司の予想したとおりの──問題だらけの内容が、その口から語られたのだ。