白い部屋1
目を開くとそこは真っ白な部屋だった。部屋の奥のほうには本棚がありその前には書類が山済みになったアンティーク調の机が置いてある。
「「なんだここは?」」
ん?おかしい、今自分の声が二重に聞こえたような気がする。声がした方に目を向けるとそこには自分がいた。一瞬鏡かと思ったがどうやら違うようだ。
「お前、戒斗・・・なのか?」
まさしく、そこに立っていたのはイカれたオレの半身様だ。頭が混乱する。
「は?え?なんだこれ・・・なんで怪人が目の前に!?」
どうやら戒斗もこの現状に頭がついていけていないようだ。それもそうだ今までカイトという身体に同居していた本来同在するはずの無い相手がそれぞれ肉体を持って相対しているのだから。これはもう生き別れの兄弟がいきなり目の前に現れた、以上の驚きだろう。
それにしても、何と言うか見た目は全く同じなのでこうして向かい合うとドッペルゲンガーでも目の当たりにでもしているようで気持ち悪い。どうやらそれは戒斗も同じことを考えているらしく何とも言えない微妙な顔をしている。
「何をぼー、っと突っ立ておる。座ったらどうだ?・・・・ん?ああ、椅子を用意しておらんかったか」
若い女の声、と言うより鈴を鳴らしたかのような少女の声が響く。机の向こうからだ。
そして直後、パチン、と指を弾く音が聞こえたと思うと何も無かった空間にソファーが出現した。
「ほら、座ると良い」
死後の世界では何でもありか!?、と思いながら声に促されるまま戒斗とオレは警戒しながらもそのソファー腰を下ろす。
「うむ・・・さて、どうだ人並みには混乱はしておるか?」
声の主は尊大にオレ達に問う。
「・・・ああ、まぁな。つか人並みも何もこんな状況に着いていける奴なんていねぇよ」
「はは、たしかにそうだな!!」
ナニが面白いのかわから無いが声の主はオレの軽口に実に愉快そうに答える。
「ああ、すまない。久しくここを訪れる人間がいなっかったのでな。少しうかれてしまった、私は話好きなのだ。さて本題に移る前に質問があれば聞くが?」
書類の山に隠れて未だ姿を見せないまま声の主はそう促す。彼女の言う本題、というのも気になるがやはりこの現状について尋ねてみる。
「お前は誰で、ここはどこで、なんで怪人と戒斗がこんな風になってるんだ?」
「うむ、無駄の無い良い質問だ。一つずつ答えてやろう。私は上級悪魔ネムリア、そしてここは私の職場。そして君らがそんな風、なのはそれが本来のあるべき姿だからだ」
うん、なるほど、わからない。かろうじて理解できたのはここがこの女の職場ということだけだ。
「なんだ理解できないか?そうだな私が悪魔なのは言ったとおりだ。そうだな、あとは、君らはそれぞれお互いの事をどう認識していた?」
「どう、ってもう一つの人格とか?」
戒斗が答える。オレは一瞬幻聴、などと軽口でも叩いてみようかと思ったが間違いなく横に居る戒斗の機嫌が悪くなるので言わない。
「二重人格・・・厳密には違うな。人格とは魂に宿るものだ。そして多重人格というのは一つの魂に複数の人格、つまり思考体系が構築されることを指す。対して君ら場合は一つの身体に二つの魂が宿っているかなりレアなケースだったわけだ。そして今こうして二人になったのは肉体と言う器が消失して魂だけになったからだ」
なるほど、今度はなんとなく理解できた。そして自分達がやはり死んだのだと再認識させられた。
「オーケー、オレ達のこの状況については理解した。それで結局あんたは何なんだ?オレ達に生前の罪を償えとでもいって地獄送りにでもするのか?」
「ははは、それはエンマの奴の仕事で私のじゃあ無い。さてここからが本題なのだが、私は君たちをスカウトするためにここに呼んだんだ」
「・・・スカウトだと?」
「そうだ。君らには我らが同胞、つまり悪魔になって貰いたい」
予想外の言葉に返す言葉が見つからない。そもそも、自分達が死んだ事は状況的に理解したが、この今だ姿を見せない声の主が本当に悪魔だと信じているわけではない
「というより君らにはそれ以外の選択肢は実質存在しない。君らの魂はもはや人間のそれ、じゃあない。すでに輪廻の内に存在することはできない状態だ」
「・・・・・どういうことだ?」
「逸脱者。私達は君らみたいなのをそう呼んでいる。生前の業、あるいは功績が大きすぎる者はその魂が人の枠からはずれるのだよ。もちろん人の枠からはずれてしまえば人としての転生はありえない。地獄にも天国にも君らの居場所は無い。その魂にふさわしいクラスに転生しなければならないのだ。悪魔あるいは英霊、あるいは天使、君達の場合はもちろん悪魔だ。・・・・さてもう一度問う我らが同胞となれ戒斗、怪人」
人間をやめろ、まさかそんなセリフを聞かされる日がくるとは思っていなかった。未練が無い訳では無い。殺り残した事がまだ沢山ある。戒斗は返答に困っているようだが、オレの返事は決まっていた。
ソファーから立ち上がり、デスクの上の書類の山を薙ぎ払う。その悪魔を見据える。
一点の曇りも無い透き通るような白い肌、対照に髪は艶やかな黒のロング、やや釣り目がちで大きな瞳はルビーのように爛々とした怪しい光を放っている。その人間離れした容姿は確かに悪魔の産物だ。
そしてネムリアの顔を見ながら言い放つ。
「悪魔にでもなんでもなってやる。オレはまだまだ殺したりねぇ。それにオレ達を殺した奴にもしっかり借りを返さなきゃなぁ」
「ははは、いいねぇ、その表情、実に悪魔的だ」
そしてそう返す少女のような悪魔も実に悪魔的な表情を浮かべていた。