反省会
落ちていた。
目が覚めたとき戒斗はこの空間にいた。一切の光明が差さない空間。目の前にかざした自分の掌すら確認できない完全な闇だった。そんな中をただひたすら落ちていく。
いや、正確には落ちているのかどうかは解らない。どっちが上でどっちが下かなんてこの空間で把握することなんてできるはずも無い。
ただ死んだ後に自分が行く場所なんて地獄しかない。だから今自分がしているのは間違いなく落下なのだろう。
そう、俺は死んだ。
死にたいと思った事も死んでもいいと思った事も一度だって無かった。ただその時は突然やってきて何が起こったのかもわからないまま殺された。しかし、実際殺されてみるとまぁ、なんだ、こんな感じか、と不思議となんの感想も沸かない。
「怪人どういうことだ?狙撃なんてお前なら気づいて防げたはずだろ」
別に非難しているわけではない。ただ気になっただけだ。狙撃をされたのは今回が初めてではない。ヘリからの狙撃、夜間でしかも一キロ以上離れたビルからの狙撃、他にもいろいろあった気がするがその度に怪人が出てき避けたり、鉈で無造作に叩き落したりしていた。狙撃に限らずカイトの身体に迫る危機を怪人が見過ごしたり遅れをとることなど一度も無かった。しかし今回はそんな怪人が出る間すら無かったのだ。
『・・・・うるせぇよ』
質問に怪人は吐き捨てるように返す。その声からは悔しさとカイトを殺した何者かに対する怒りが滲み出ていた。
「・・・まぁ、いいや。それより俺たちこれからどうなるんだろうな?」
『オレが知るかよ・・・まぁ、こうしてオレたちの意識がまだあるって事は死んだ後には何も無い、ってわけじゃ無さそうだ。普通に考えて地獄にでも落ちるんじゃねぇか。』
「はぁ・・・だよなぁ」
俺と怪人は仲が悪い訳ではない。もちろん怪人の殺人行動を認めてはいない。それでも長い間文字通り共に過ごして来た怪人の存在自体を否定した事は無い。
『そう落ち込むなって。オレは結構楽しみだぜ。地獄には罪人とか鬼とか悪魔いろいろ居るんだろ、殺し放題じゃねぇかよ』
「あー、まぁお前が楽しそうで何よりだよ」
『ん?何だいつもみたいに「殺すな」とは言わないんだな』
意外そうに怪人は言う。
「は?別に人を殺さなきゃ何をどれだけ殺してもかまわないよ。何いってんだよ」
『そ、そうか・・・』
歯切れが悪そうに返す戒斗が少しきになったがその異物が目に止まりすぐにどうでも良くなった。
「ドア?」
落下する先に小さくドアが見える。自身の身体すら見えない完全な暗闇の中でそのドアだけがくっきりと見えるのだ。
気が付けばドアまでの距離は殆ど無くなっていた。どうも思ったより落下のスピードが速かったようだ。
ぶつかる、そう思って腕を顔の前で交差させた瞬間、ドアが開き目が眩むほどの白い光の中に俺たちは飲み込まれて行った。