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殺人鬼は勇者になりましたとさ  作者: ぎゃろっぷ
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生存者0

サイレンの音が鳴り響く。目の前には胸から鉈を生やした男が椅子に縛り付けられ息絶えている。

「またか、また、なのか…」

六首(むつかべ) 戒斗(かいと)は悔しげに、しかしどこか諦めたように声を絞り出した。

「何故だ!!怪人(かいと)!!何故、こんな事を続けるんだ!!」

彼は声を張り上げるが、怪人と呼ばれた者の姿は無くこの部屋で生きている人間は返り血で真っ赤に染まった戒斗ただ一人だけだ。

「人殺しなんてもうしたくないんだ!!」

戒斗は声を張り上げ独白する。


『おいおい、またかよ。その台詞を吐くのはもう何回目だ?あん?今日で200回目、そして記念すべき200人目だぜ。殺したくない?お前はそう吐きながらこれだけ殺したんだぜ?家族を捨て、友人を捨て、故郷(くに)を捨ててまでだ。自首するなり、首を括るなり、やめる方法なんていくらでもある。それでもお前は嫌だ嫌だと喚きながらここまできたんだろうが』


頭の中に響く声。その声は戒斗を嘲笑するかのような口調だ。


「うるさ…い、うるさい、うるさい!!全部お前が俺の身体を使ってやった事だろ!!」


『そうだ、その通りだぜ戒斗、全部このカイトの仕業だよなぁ、でもお前はもう解ってるんだろう?■■■■■■■■■、ってことをよう』


「っ・・・・・・」


戒斗は言葉に詰まる。怪人が何を言っているのか理解できない、そう理解できないはずだ、と自分に言い聞かせる。


『さぁ、くだらない問答はあとにしたほうが良さそうだ。』


そんな怪人の言葉で思考を遮られる。気が付けばサイレンの音は今いる廃ビルを取り囲むように四方から鳴り響いていた。


耳を澄ませ周囲の音を把握、それを映像として頭の中に落とし込んでいく。


州警察のパトカーだけでは無い。特殊部隊の車両の低いエンジン音、そこから降り立つ重装備の部隊、上空では戦闘ヘリが旋回している。


彼らは怒声で指示を飛ばし合い、突入の体勢を整えていく。


『さぁ、さっさとオレに替われ。』


「くぅ・・・・・!!」


戒斗は俯き悔しそうに奥歯を噛み締める。


『ふん、そういうのは、いいんだよ戒斗。あと三十秒もすればこの部屋に閃光弾が投げ込まれる。そして間髪入れずに突入してくるのは武装した特殊部隊だ。さてこの状況、お前は何をすべきか解っているはずだ。』


自分を見透かしたかのような怪人の言葉に反感を覚えるがそれが事実である事を理解していた。目の前の死体に突き立てられている鉈に手を掛け、すぅ、と息を吸い込む。


「俺はこんな所で捕まるつもりも、撃ち殺されるつもりも無い。だから怪人・・・全力で俺を逃がせ!!!」


その言葉と共に一気に鉈を引き抜く。瞬間、戒斗の意識は静かに沈んでいき、替わりに燃え(たぎ)るような怪人の意思がカイトの身体を支配する。


「・・・ああ、まかせろ戒斗、お前が寝ている間に全て片付けてやるよ!!さぁ、さぁ、今夜の殺人(おたのしみ)はまだ終わってないぜぇ!!そうら、来るぞ、来るぞ!!」


・・・・3


・・・・2


・・・・1!!


カウントと同時、小さく開いたドアからカランッ、と音を立て空き缶のような物が投げ込まれる。瞬間、強烈な閃光と爆音が炸裂した。


*


俺たちの突入は完璧だった。経験と技術に裏づけされた制圧行為。犯人が武器を捨て手を頭の後ろに回していたら拘束、そうでなかったら射殺。それだけの事だ。まぁ、閃光弾に混乱して降伏姿勢なんて取れるわけも無いが。


何度もこなしてきたことだ。ろくな武装も無しに立てこもっている馬鹿な強盗やらテロリストを最新の装備で身を固めて制圧するただの作業。今回もそんな感じで終わるはずだった。ドアを蹴破り混乱している犯人を撃ち殺す―


しかし、突入と同時、ヘルメットのバイザー越しに目に入ったのは宙に舞う同僚の首と鉈を振り抜いた長身痩躯の怪人(ばけもの)、そしてそいつがもう片方の手で自分に振り下ろした斧の刃だった。


                        *

ゆっくりと目を開ける。身体の主導権が自分に戻ったという事は全てのカタがついたと言う事だ。

無駄な希望やためらいなど目を見開くと、やはり、と言うか想像通りの光景が広がっていた。


血の海と内臓(モツ)と腕やら足、どこか解らない人の部位、部位、部位。骨格や間接を無視した雑多で正確無比な裁断。


火を上げ二つ折りにされた警察車両、振り返るとさっきまでいた雑居ビルには戦闘ヘリが突き刺さっている。


「こんなの、もう人間の仕業じゃねぇだろ・・・・」


全てが終わった光景を見渡し、返り血でベトベトになった髪を掻き揚げながら呟く。

そして自身がどれほど逸脱した存在なのかを自覚する。


「怪人」という呪い、「殺人」という呪いがもう後戻りできないところまできていた。

もうどうすることもできない。生きている限りこの呪いは自分とともにあるのだ。


だからと言って自ら命を絶つと言うのは論外だが。


「雪か・・・・・」


気づけばやや季節はずれの雪が降っていた。しだい強さを増し降りしきる雪は地面の血の上に落ちては溶けていく。


春が来て殺し、夏が来て殺し、秋が来て殺し、そしてまた冬が来て殺すのだろう。

それでも俺は生き続ける。たとえ狂いきった人生だとしてもせめて意味のあったものにしたいから。


ガンッ、と頭を真横から強い衝撃が走り抜けた。


「・・・は?」


足がガクガクと笑い立っていられず膝を着く。殴られたのかと思いその方向を見てもあるのはもの言わぬ死体の山だけ。どんどん赤らむ視界の中今度は衝撃が走り抜けたほうに目を向ける。


「なんだこれ・・・脳漿・・・か?」


それが自分のものだと気づいた時には戒斗は血と臓物の海に正面から突っ伏していた。






































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