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第8話 悔いなし

“美穂だ。”

そう言われて何も声が出なかった。まず意味が分からなかったからだ。

「あのー。どういう意味ですか?」

梅野さんが尋ねた。

「教えるよ。美穂の脳内がそうしているんだ。」

「原田氏の脳が、美穂さんを動かしたということですか?」

「そう。問題は誰が脳を美穂の体に入れたか。」

「誰なの?」

「ごめん。そこまでは…。」

私と梅野さんは溜息をついた。

「大丈夫、調べておくよ。」

「お願いね。」



その頃、私が入院していた病院では。

「しっかりしてください。」

「お爺ちゃん、死なないでよ。」

尊い命が亡くなろうとしていた。



私は入院していた病院の看護婦さんに和菓子を渡した。

「詰まらないものですけど、皆さんで食べてください。」

「ありがとうございます。」

「それでは失礼します。」

私が帰ろうとした時、周りが煩くなった。

「ん?吉郎さん!」

彼の名前は大竹吉郎(きちろう)さん。私が入院していた時にお世話になったお爺ちゃんだ。私には、どうすることも出来なかった。でもちゃんと会いたい。会って御礼がしたい。私は吉郎さんの手術が終わるまで待っていた。



しばらくしてから手術が終わった吉郎さんに行った。

ガラガラ。

「吉郎さん。」

「おお、美穂ちゃん。どうしたの?」

「いやいや、吉郎さんこそどうしたんですか?ビックリしましたよ。」

「心配させてごめんね。美穂ちゃんがいたころは小さな腫瘍で済んでいたんだけど、今になって腫瘍が大きくなってね。もう治らないんだよ。」

「そんなこと言わないでください。」

「いや、死ぬだけだから。俺はもう人生を遣り尽くしたから。悔いはないんだ。」

「そんな…。」

可哀想なことは言わないでほしいよ。

「美穂ちゃんは結婚したんだよね?」

「はい、愛されるというのは幸せなことだと思います。」

「人生は長いよ。悔いの無いように生きなきゃ。」

「吉郎さんは本当にやり残したことはないんですか?」

「そんなこと言わないでよ。やろうとは思わないよ。」

「ということは悔いを残したことがあるんですね?」

「まあね。でも余命1週間しかないから、もういいよ。」

「その悔い残したこと、今から果たしませんか?」

「今からかい?」

「はい。それで、やり残したことって何ですか?」

やれやれという顔をしながら言った。

「実はね、高校の頃に好きな人がいたんだ。もう60年も前の話だけどね。告白をしたかったんだけど、海外に引っ越しをしてしまってね。悔いを残してしまったんだ。」

「名前は何て言うんですか?」

押川由子(よしこ)。」

「分かりました。役所に行って調べてきますので待っててくださいね。」

私は走って役所に行った。



1時間後、面白いことが分かった。前に私に相談しに来た押川綾乃のお婆ちゃんだということが分かった。すぐにアポを取り、綾乃ちゃんにお婆ちゃんを呼んでもらった。私は吉郎さんを連れて、押川家に行った。

「準備は良いですか?」

「大丈夫。」

ピーンポーン♪♪

「は~い。どうぞ。」

「お邪魔します。」

2人で押川家のリビングに入った。

「いらっしゃい。」

そこには押川由子さんがいた。

「美穂さん、お茶飲みます?」

「いいや、私たちは邪魔者みたいね。」

「そうですね。」

そう言いながら隣にある台所に行った。そして吉郎さんは話をし始めた。私たちは2人の様子を見守っていた。

「久しぶりだね。」

「そうね。もうすっかり老けちゃって。」

「ハハハ。それより今日は君に伝えたいことがあるんだ。」

「何?」

「高校の時、ずっと君のことを愛していた。君に好きだと伝えられなかったのが唯一の後悔だった。」

「嬉しいわ。ありがとう。私も吉郎くんのことが好きだったのよ。」

「早く伝えられていたら結ばれていたのにね。」

「生まれ変わったら結婚しよう。」

「はい。」

「俺もそろそろ潮時なんだ。」

「どうして?」

「余命1週間だ。」

「………。あなたとも会えなくなるのね。」

「由子、愛してくれてありがとう。」

そう言って吉郎さんは押川家を立ち去った。



1週間後、吉郎さんは息を引き取った。悔いのない顔をして。そして由子さんも同じ頃に息を引き取ったという。   続く

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