第2話 運
「失礼いたします。」
ガラガラ。彼女は梅野亜紀。就活中の大学4年生。気象予報士試験に落ちまくり情緒が不安定になりつつあるのだ。梅野亜紀は、その日の夜に友人と一緒に食事に行っていた。
「どうだった?」
「全然駄目。受かる気配がないよ。」
「そう。私は就活が終わったから何も言えないけど…。ごめんね。」
「大丈夫だよ。頑張るから。」
とは言いつつも私の元へ相談に来た。
カランコロン♪♪
「失礼します。」
「は~い。誰ですか~?」
私はアイスクリームを食べていた。美味しい。
「あのー、相談したいんですけど…よろしいですか?」
「どうかなさいましたか?」
「うえ~ん。うううう…。」
彼女は泣き始めた。
「あの、落ち着いてください。泣かれても困るんですけど。」
「うう…、すみません。私の名前は梅野亜紀と言います。就活中の大学4年生です。私、気象予報士を目指しているんですけど、中々受からなくて。私、凄く心が折れそうなんです。どうすれば良いですか?それと、どうすれば受かりますか?」
「受かるか受からないかは私は知らない。でも、どうすれば良いかは助言できるかもしれないわ。」
「本当ですか?」
「それも梅野さん次第ですけどね。」
そう言いながら私は家を出た。
「あなたも来て。」
家の外は一面田んぼだらけで、周りに家は無かった。
「何をするんですか?」
「この景色を見て、1分間スピーチをしてください。」
「はい?何でですか?」
「まずやってください。」
「分かりました。えーと、この景色は…青くて雲1つ無い心地よい景色です。………、ごめんなさい。出来ません。」
「あーあ、情けないですねー。それで気象予報士になろうだなんて、今のままじゃ無理ですよ。」
梅野さんは黙った。
「何か言い返したらどうなんですか?」
「何でそんなに追いつめるんですか?」
「あなたの弱さ、分かりました。」
「何でなんですか?」
「梅野さんは自分の弱さを分かっていなかった。ただそれだけよ。」
「そんな…。」
「梅野さんが内定を貰えないのは心の問題よ。それに泣くなんて考えられないから。」
「ならどうしたらいいんですか?」
「今自分がやるべきことをやるの。その結果が梅野さん自身の財産にもなって、経験談として試験で話せば良いじゃない。人に誇れるようなことはある?」
「特にはないです。」
「でしょ、なら自分のやったことを話せば分かってくれるし、受かるきっかけになると思うよ。」
「確かに、私は面接だからって常識に囚われていたかも知れません。」
「皆と同じことをしては何も上手くいかないよ。」
「それに私は面接に落とされただけで深く落ち込んでいました。気持ちで負けていたんですね。」
「そうね、まず気持ちで勝たないと。」
「私、一応気象予報士の資格は持っているんですけど…。」
「気象予報士の資格なんて皆持っていないと受けられないんじゃない?それに資格を持っているという慢心。気を付けた方がいいよ。」
「え?」
「皆なりたいっていう気持ちで受けているんだから。要するに技術じゃないのよ。」
「そうなんですか?」
「技術があるからって気象予報士に慣れるってわけではないでしょ?だから梅野さんは面接に何回も落ちているんでしょ?」
「確かに…。」
「面接に技術は必要ない。分かった?」
「はい。私、変わることが出来そうです。面接、頑張ります。」
「頑張って。」
梅野さんは走って私の元から去って行った。変わってくれればいいけどね。
1週間後のことだった。梅野さんが私の家に来た。
「美穂さん、私気象予報士になることが出来ました。」
そう言って内定通知を私に見せてきた。
「良かったね。おめでとう。」
「本当にありがとうございました。」
「あなた、私に相談したことによって運がよくなったんじゃない?」
「私も思いました。運が良いです。私、彼氏が出来たんですよ。」
「ほう。運が良い。」
「これからは常にポジティブな考えをしていこうと思います。ポジティブが運を寄せると思うので。」
「そうね。これからも頑張って。」
そう言いながら私は梅野さんに苺をプレゼントした。
「苺ですか?」
「一期一会。」
「上手いですね。」
「苺が美味いだけに?」
「ハハハ。それだけのポジティブさがあれば大丈夫よ。」
梅野さんは、ふと疑問に思ったことがあった。
「そういえば美穂さんって何歳ですか?」
「え…。」
私は黙った。そして。
「いっ。」
この前同様、頭が痛くなった。
「美穂さん?」
梅野さんは私のことを何か感じているのだろう。そして何故か私の記憶の中から、走馬灯のように映像が出てきた。
“私も正直に伝えるね。小学校の時、声をかけてくれてありがとう。その時から“この人と結婚する”って思っていたの。運命感じた。傷ついてるなんて思っていないし...私も愛してる。私で良ければ結婚しよう。”
何これ?気味が悪かった。 続く