第三話「男×男?」
ノリだけで書いている状態。この先何が起こるのか、自分でもわからない……。
「家出……ねぇ」
リビングの少し小さめのテーブルを挟んで、妙な渋みのあるお茶を飲みながら私は篠崎くんにこれまでのいきさつを話した。色々と情けない部分もあって、かなり……とっても……最大級に恥ずかしかったけれど、話さないわけにはいかないだろう。彼には色々助けられてしまっているし、そういうことは別にしても私が話したい……というより愚痴を聞いてもらいたかったというのもある。
そして、聞き終わった篠崎くんの台詞がこれだ。
笑われるんじゃないかと少し心配していたのだが、そういうことはまったくなくて。ただ、すごく困り顔ではあったけど。彼はただ「なんて言えばいいのかわからね」とどこともつかない場所を見ながらつぶやいていた。
「別に何か言ってほしいわけじゃないけど……?」
「そんなもんか?」
「そんなもんよ」
私が言ってもなお篠崎くんは悩んでいたのだけど、どうやら諦めたらしい。小さくため息をついたと思ったら急に立ち上がった。
テレビもついていないリビングで何もすることのない私は、ついつい篠崎くんのことをじろじろと見てしまっていることに、目がぱっちりと合ってから初めて気づく。慌てて視線を逸らすけれど、自分でもわざとらしく思えて少し嫌になる。
「……そういえば、このお茶」
慌てて何かを話そうとして、私はまた失敗していた。どう言えばいいというのだ。このお茶があまりおいしくないことは彼だってわかっているはずだ。その証拠に先ほど一口飲んだときに苦い顔をしていたのを私は見ていた。このお茶まずいね。とかでも言うのか? いやいや、言えるわけがない。
「別に無理して飲まなくてもいいぞ。普段、お茶とか飲まないから茶葉だけあってもなかなか淹れないんだ……って、言い訳がましいな」
「ううん。私もお茶は淹れたことないもん。きっと私がやっても同じような味しかできないよ」
照れたように笑う篠崎くんに、私も笑い返すことができた。なんとか話題を作ることができたようだ。
「おっと、そうだ。風呂浴びてくだろ? 着替え……姉の使ってたやつしかないけど、取りに行ってくるから待ってろ」
「えっ、そんな……いいよ」
「遠慮すんなよ。どうせもう使わないし」
そう言って、私の返事も聞かずにどんどんと行ってしまう篠崎くん。そういえば、篠崎くんのお家はけっこう大きい。それなのに、私はまだ他の家族を見ていなかった。
お姉さんはもう一緒に住んでいないのかな? もう使わないって言ってたし。ということはもう結婚して実家を出ていたり? お父さんとお母さんは共働きなのかな? もう夕食時だし、私もそろそろお暇しなくちゃ。
でもその前に、お風呂だけは入らせてもらおう。道路なんかで寝ていたせいで全身汚れているし、走り回ったから汗だくで気持ち悪い。
ふと気になって体を見下ろしてみると、そこには汚れた制服を着込んだ私の体。どうやら寝ている間に着替えさせたりとかはできなかったらしい。さっきまで篠崎くんのベッドに寝かされていたのだけど……ベッド汚しちゃったよね。これまでのこともあるし、ちゃんとお礼を言わなくちゃ。
そんな決意を抱えつつ、しばらく待つと篠崎くんが洋服一式もって帰ってきた。ジーパンにシャツ。それと、新品のものらしいまだセロファンに入ったままの下着なんかも一緒に。本当にありがたい。いくら感謝しても足りないくらいだなあ。
と、受け取ろうとするが、私の手が彼の手にある洋服に触れる瞬間に腕を引かれて、手の届かない場所へとやられる。
「それとなお前、今日はどこに泊まるつもりだ?」
「え?」
そして、出てきた質問に私は自分の考えが浅はかであったことに気づかされる。夜を過ごす場所なんてまったく何も考えていなかったのだ。
「えーと、ネカフェ……とか? ひぃ」
とりあえず、思いついた場所を言ってみると篠崎くんの目が釣りあがった。そんなにダメかな? ネカフェ難民とかってちょっと前までニュースでやってたし、割といけると思ったんだけど。
「当てがないんだったら家に泊まれ。友達の家に泊まってるってことにすれば両親も安心するだろ」
「はい?」
「うちは俺以外には誰もいないから、誰にも迷惑はかからない。安心しろ」
違う意味で安心できないんですけど!
よっぽど考えが顔に出ていたらしい。篠崎くんは「ああ、そうか」と呟いた後、衝撃的な言葉を私に放った。
「お前を襲うとか、そういうことは考えなくていいぞ。
俺は男色だからな」
…………そんなカミングアウトは聞きたくなかった。それと、証拠とばかりに表紙ですら過激な薄い冊子みたいのを見せるのはやめてください。私の騎士様……。
なんで篠崎くんはそんなキャラになったのか……俺にもわからない。
果たして、篠崎くんと天草陽菜の恋愛劇の予定はどうなったのか? えっと、神のみぞ知る?