第二話「クラスメイト」
目がさめると、私はどこか知らないお家にいた。
「……はい?」
いや、私がどういう状況にいたのかは忘れていなかった。勢いよく家出したのはよかったけど、調子に乗って怪我した挙句に水道を求めて公園を探している途中で寝てしまったのだ。
それで、気づいたら知らない家で寝ているということは寝ている間に私は動かされたわけで……。「誘拐」という言葉が頭をよぎって一気に周りが寒くなったように感じる。手には汗もかいていた。どうにしかして、ここから逃げ出さないといけない。
なるべく音を立てないようにしてベッドから抜け出すと、床にそっと足をつけた。まだ膝は痛い。けれどそんなことよりも、ギシっと床のなる微かな音ですら気になってしょうがなく、そんな音が一つ聞こえてくるごとに心臓が跳ねて口から飛び出てしまいそうになる。
それでもそっと、この部屋の唯一の出口であろうドアの前まで来れた。今更だけど、ドアに鍵がかかっていたらどうしようと思いつつも、ドアノブをひねってみると意外なことに呆気なく開く。どうやら鍵はかかっていなかったらしい。誘拐犯の癖に無用心だなあ。ま、私は助かるからいいか。
と、相変わらずゆっくりと音を立てないようこそこそと廊下に出たところで、すぐ正面のドアが開いた。
「うひゃあああ!」
情けない悲鳴を上げてしまうのも仕方が無いと思う。慌てて後ずさろうとした私は、怪我をしていた膝から襲ってきたあまりの痛みに体が思ったように動かずその場でお尻から転んでしまったのだ。絶対、あざになってる!
そんな私を怪訝な顔でそいつは見下ろしていた。
「なにしてんだ?」
「えっと……なにしてんだろう?」
とっさに何も言い返せずに逆に聞き返してしまう始末。目の前に立っていたのはクラスメイトの篠崎くんだった。ってか本当になにしてるんだろう私? あんな道端で倒れていたところを彼に見られたのか……恥ずかしくて死ねる。
自然と顔が赤くなっていく。そう考えると、篠崎くんとも目を合わせづらい。って、篠崎くんも少し顔を赤くしている気が……。
「いい加減、スカート下ろせよ」
「へ?」
見ると、しりもちをついている私はまさにM字開脚状態……。
「…………」
「…………」
「えっと、見苦しいところをお見せいたしました」
「ほんと、お前はなにをしているんだ……」
ため息をつく篠崎くん。本当に呆れられているのがひしひしと私にも伝わってくる。私だってため息をつきたい。
あれ? そういえば、夢に篠崎くんが出てきたような……でも、篠崎くんがここにいるってことはあれは夢じゃない? 私、なんか恥ずかしいことを言っていたような気がするんだけど。
『キター、私の王子様。いや、騎士様?
いやん、お姫様だっこなんて恥ずかしい……です、って……ば。』
………………………死ねばいいのに、私。
何を寝ぼけて変なことを言っているんだ。王子様? 騎士様? 直前にファンタジー小説でも読んでた? いいえ、これが素です。いつもそんなことを考えていました。そんな私のバカやろうーーーー!
と、とりあえず、立ち上がらないと。
「お、おいちょっと待て。まだ怪我痛いだろう」
「いやいやいや、これぐらい大丈夫……」
「遠慮すんな」
と、半ば強引に篠崎くんが肩を貸してくる。うわあ、けっこう力がある。篠崎くんって、たしか帰宅部だったけど、男の子って全員これくらいは力持ちなのかな? 買い物に便利そうだ。もはや必需品だね。
篠崎くんのイメージが私の中で上位修正されていく中、彼が言った一言が私の思考をフリーズさせた。
「お姫様だっこよりは恥ずかしくないだろう?」
忘れていて……ほしかった。