第一話「家出少女ランナウェイ」
この先をまったく考えてないので、もしかしたら続かないかもしれません。平にご容赦を。
私は一体何なんだろう。よく見知っている道を走りながら私は自身に問いかけていた。
「少なくとも、あんたの所有物じゃないわよ」
息を切らして苦しげながらも、口から自然に出た言葉は私自身の本音だ。その一言で酸素を使い果たしかけて呼吸は一気に苦しくなるけれども、それでも走るのをやめないし、頭は同じように働く。いや、実は働いていないのかもしれない。さっきからおんなじことしか考えてない。
なにが「お前は黙って言うことを聞いていればいい」よ! ざけんじゃないわよ。ざけんじゃない!
普段なら到底口に出さないような罵倒を頭の中で出しながらも私は自分の家から遠ざかるように逃げる。よく見知った道を外れて、あまり行かない道へ。でも、少なくとも一度は行った事のある道だ。
だから、今ならばわかる。先ほどまでのように考えなしにあちらこちらへ曲がりながらここから先、私のまったく知らない道に行ってしまえば、方向感覚がお世辞にも人より良いとは言えない私だとあっという間に元の場所へ帰れなくなるくらいに迷ってしまうことが。
それでも私は走った。私は逃げなければいけないんだ。あの私を生んだ傲慢な母親とも、逃げられるわけないぜ。と、かっこつけながら私を笑う現実からも。
私は私。天草陽彩だ!
「そうよ。私は自由なんだ! ……ってうわぁ」
両手を大きく上げて自由のポーズ……というよりむしろグリ○? 的なポーズを取りながら走っていたらものの見事に転んでしまった。ズザァって地面を数センチだけど滑った私は、当然それで怪我一つ泣く無事で済むわけがなくて、膝には見事に大きな擦りむいた跡ができてしまった。うわあ、血がダクダク出てるよ。ひどい見た目の割にはあまり痛くないというか、あまりのひどさにアドレナリンがめちゃくちゃに出たおかげで興奮のあまり痛みを感じないって感じ。
普通に立ちあがれてはいるけど、その間にも膝からは血が垂れてきていて、真っ白な靴下が上のほうから赤黒く染まっていく。別にお気に入りってわけじゃないけど、というより学校の指定で白の無地しかダメなわけなんだけど、それでも自分の着ているものが血に汚れてしまうのはやっぱり嫌だ。まあ、着ていた制服だって転んだせいで汚れてしまってはいるのだけど。
そして何より、つい「これ、絶対お母さんに怒られるなあ」と考えてしまっている自分に気づいて、私は憂鬱な気分になる。結局まだ私は自由になりきれていないのだ。
いやいや、諦めるな私。自由になりきれていない? ならば自由になればいいじゃないか。うん、逆転の発想だ。何事もポジティブに考えればきっといつか乗り切れるんだって本にも書いてあった。
それにしても、と私は膝の傷を見下ろしてため息をつく。これじゃあ走れないよね。と、案の定歩いただけで我慢できないほどではない痛みが膝の辺りから伝わってくる。痛みが興奮によって抑制されている今でもこれだ。きっと平常に戻った後は膝を抱えて転げまわっているんじゃないだろうか。
「どうしよう……」
途方にくれてしまい、一瞬だけ素直に帰ることを考えてしまったが、そんなこと絶対にしたくない。そもそもの話、すでにここがどこなのか私にはわからないのだ。誰かに道を聞きながらっていうのもこの年じゃ恥ずかしいすぎる。いやいや、どっちにしろ帰らないんだからそんなことを考える必要なんてないんだ。
とりあえず、傷口を洗おう。細菌が入ると怖いし。と、私は来る途中で見つけた公園のことを思い出す。公園ならば水道くらいはあるだろう。私はそこへ戻ることを決めた。
まだ興奮は続いていたのか、歩けなくはない。だけどゆっくりと、さっきみたいに全力ダッシュとかはしないで普通に歩いて来た道を戻った。戻ったのだけど……。
「……ここどこ?」
かわいらしく小首をかしげる仕草。どうせ私には似合わないのだけど、こんな冗談でもしていないと気がめいってしまいそう。
どこで道を間違えたのかもわからない。途中まではあってた……と思う。でも、私は迷子になってしまった。いや、元から迷子だっけ? とにかく、公園はいつまで経っても見つからなくて、次第に膝の痛みも増してきた私は精魂尽き果て地面に座り込むのだった。
ああ、どうしよう……。そう、こんな時こそ逆転の発想だ。えぇと……傷が洗えない? ならば傷が洗える場所に行けばいい。それで、洗える場所に歩いていけないのなら、歩かなければいいじゃない! って諦めちゃだめじゃない!
もう自分が何をかんがえているのかがわからなかった。おまけに家から全力ダッシュしてきたのが、文化部娘の私の体力には厳しかったようで、すごく体が重い。まぶたはもっと重い。そういえば、何かの本で読んだけど、アドレナリンには眠くなる作用もあるんだっけ? 興奮が冷めるとすごく眠くなるとか。
ああ、眠い。こんなところで寝ちゃダメだって言うのはわかっているけど、自分が今起きているのか寝ているのかもわからなくなってきた。かぼちゃスープおいしいね。いや、パンのほうがおいしいのか。って夢の内容がすぐに頭の中からあふれ出してきている感じ。
おお、そこにいるのはクラスメイトの篠崎くん。こんなところで何をしているので? えっ? 私を助けに来た? キター、私の王子様。いや、騎士様?
いやん、お姫様だっこなんて恥ずかしい……です、って……ば。