メイドと盗賊
ミントが進み出ると向こうからは盗賊の青年が前に出た。薄汚れた髪と服装だが、目だけは爛々と輝いていた。
「メイドさんが相手かよ~。本気出しづらいな~」
そう言いながら盗賊はナイフをジャグリングしている。
「盗賊・ジャック。よろしく♪」
「ご主人様だけのメイド・ミントと言います。よろしくお願いします」
ジャックがミントを威嚇するように睨むが、ミントはさらっとその視線を受け流す。中堅戦のスタートだ。
ジャックがすかさず地を蹴る。両手に持ったナイフが怪しく光る。ナイフでミントに斬りかかる。
「真っ赤な花を咲かせちまいな!」
「・・・・・・」
ミントは地にしゃがみ込んでナイフをかわす。地に手をついたまま後ろに二歩下がる。そしてジャックを見る。
「よくかわしたなぁ。だが、今度はどうかな?」
ジャックはミントに何度も斬りかかる。ミントはそれをただかわす。何度もすれすれを斬られる時があった。ミントの額には汗がじわっと浮かんでいた。
「ミント、すごい・・・」
「ああ。さすがメイドの中のメイドだな」
ジャックからいったん距離を取ったミント。すかさずジャックがナイフをミントに投げる。ミントは瞬時にしゃがんだがナイフが耳元をかすめていった。
「・・・そろそろいいですかね」
そう言って立ち上がるミント。あくまでもその目は冷静だ。
「なんだ、まだ余裕があるのか。じゃあ、これで終いだぜ」
ジャックがナイフを振り回しながらミントに斬りかかる。今度はミントは動かない。
「・・・遅いです」
ミントはジャックの懐に入り込んだ。ジャックのナイフを巧みにかわしながら。そのままがら空きのジャックの腹にストレートをぶち込んだ。
ドスッ!!
「ぐへっ・・・!」
ジャックは白目をむいて倒れてしまった。ミントは涼しい顔のままだ。
メイド・ミントの勝利。
「さすが“ストレートティー”と言われていただけのことはあるな」
「“ストレート”ってその、パンチのほうのストレートだったの!?」
「お役にたててうれしいです」
「これで一対一だね。勝つも負けるも勇者様次第だ」
「やっぱバカだな。俺が負けるわけないだろ」
勇者様はニセ勇者を睨んだ。ニセ勇者も勇者様を睨み返した。