バカと水の魔術師
楓太が前に進み出ると、ニセ勇者一行からも魔術師らしき女が進み出た。女は楓太とは比べ物にならないくらい高級そうな純白の杖を持っていた。海を思わせる青色の髪は肩にとどくほどのショートボブで、ゆったりとした白いローブを着ている。くたびれた茶色のローブを着て木製の杖を持った楓太とはずいぶんな差がある。
「クラスAの水の魔術師、アクアといいます。よろしくお願いします」
アクアは丁寧に楓太に頭を下げる。
「クラスAだと・・・!?僕の師匠ですらクラスCだったのに」
「ふつう師匠ってめっちゃ強いっていうのが王道だと思うんだけどな・・・やっぱバカの師匠もバカだったのか」
勇者様はそんなことをつぶやいた。
「クラスEの炎の魔術師、勇者様の右腕、楓太だ!」
「クラスEだと?笑わせやがる。うちのアクアの圧勝だな」
向こうのニセ勇者はへらへら笑っている。だが、勇者様も余裕の笑みだ。
「楓太は大丈夫でしょうか?」
「ああ。あいつはバカだがあいつには頼りになる精霊がいるからな。イフリートはレベル5のモンスターだからな。クラスAじゃ同等くらいだ。勝負はわからない」
楓太とアクアが杖を構えた向き合う。バトル開始だ。
「ファイア!」
先手は楓太だ。下級魔法でアクアの出方をうかがう。アクアは澄ました顔で杖を楓太に向けて呪文を唱える。
「ブルネングレーサー!」
杖先からほとばしる煌めく水の奔流が楓太のちっぽけな魔法を飲み込んで楓太に襲い掛かる。
「うっそー!?」
為す術もなく楓太は本流に飲み込まれ上空に打ち上げられる。
ドサッ!
楓太は無様に地面に叩きつけられた。アクアは微笑んでいる。
「この程度ですか?勇者の仲間の魔術師というのは果たす役割も多いものです。あなたの腕でそれが務まるとは思えませんが?」
「・・・ハハハッ!今のは君の実力を見たにすぎない。僕の本気を見て腰を抜かすなよ!・・・召喚!」
楓太が真紅の指輪を前に突き出すと光が飛び出し、イフリートのルビーが現れた。
「アタシを呼んだ~?」
「イフリートだと!?そんなモンスターの召喚の指輪を持ってるのか!?」
向こうの盗賊が驚愕の表情を浮かべている。楓太はにやりと笑う。
「さあルビー、僕たちの本気見せてやろうぜ!」
「ボクたちっていうか、アタシだけだけどね」
ルビーもにやりと笑う。掌に炎を集める。
「燃えちまいな!」
ルビーの放った炎は瞬く間にアクアを囲み襲い掛かる。しかし、アクアは憐みのような表情を浮かべて呪文を唱える。
「・・・ブルネングレーサー!」
水の奔流はルビーの炎さえも飲み込みその勢いのまま楓太とルビーを巻き込み上空に打ち上げる。
「「ギャァァァーーー!!」」
ドサッ!ドサッ!
地面に叩きつけられた楓太とルビーは伸びてしまった。アクアはため息をついた。
「水と炎じゃ完全に相性が悪いのに。正面からぶつかったら水が負けるわけないわ」
水の魔術師・アクアの勝利。
「ゴメン勇者様!」
「ったく相性とか考えないなんてやっぱバカだな。決めた、これからはあのアクアと旅をしよう。かわいいし頭もいいし」
「ちょっと勇者様~・・・!!」
先鋒戦を落とした勇者様側は後がなくなった。中堅にはミントが行くことになった。
「私でよろしいのですか?」
「大丈夫。お前が強いのは俺にはお見通しだ。『ティータイーム』で噂はたくさん聞いたからな。あとお前には頼みがある」
そう言って勇者様はミントになにやらを渡して耳元で何かつぶやいた。
「わかりましたご主人様」
ミントは進み出た。楓太がリュックの中をガサゴソしながらつぶやく。
「あ~あ、ポーションがこぼれちゃったよ。リュックの中臭くなっちゃった」
「お前は黙ってろ!」