バカとニセ勇者
三人は『サビレータマーチ』に行く途中にある小さな荒れ地の街に立ち寄っていた。街の名は『スモールムーラ』。この街に長居をする気はなく、すでに三人は街を出るところであった。
「楓太―、早くしろよ」
「置いていきますよー」
勇者様とミントはすでに町を出る準備万端なので、楓太がアイテム屋を出るのを待っていた。
「待ってよ!アイテムとか補充しないと!これから魔王と戦うのに・・・ホント危機感のない奴らだな。僕がしっかりしないと!」
そう心に誓った楓太はアイテム屋の店主とにらめっこだ。
「ハイポーションか・・・高いな。一個も買えないよ。ポーションならかろうじて余った金で買えるな。おじさん、一つください」
「はいよ、まいどあり♪」
これで所持金ゼロだな、とか思いながら店を出た楓太はポーションの小瓶を片手にあることに気が付いた。
「あっ、ポーション入れる袋がなかった。このままリュックに入れて万が一中身がこぼれちゃったら・・・お代が無駄になるし、リュックの中が臭くなるよな~」
そこかよ。
「しかたない。慎重にしよう」
楓太は慎重にリュックの中にポーションの小瓶を詰めると、タオルで小瓶が動かないように固定した。そして勇者様たちに追いついた。
三人が街を出ると荒れ果て乾いた大地が延々と続いていた。
「ここを後二日も進むのかよ」
「つらいなー・・・」
「ご主人様、元気を出して下さい」
「勇者様だけじゃなくて僕も励ましてよ!」
そんないつもの暑苦しい会話をしながら歩いていると、後方から勢いよく追いかけてくる奴らがいた。人数は四人。
「なんだあいつら?」
三人が振り返るとその四人組は楓太達の前で止まった。砂埃が舞って顔がよくわからない。
「お前が勇者を語っているという悪党か!?」
戦闘に立って走っていた金髪の青年が勇者様に言った。
「は?なんのことだよ。俺は本物の勇者だ」
「やっぱり悪党か!本物の勇者はこの俺だ!」
金髪が自分自身を自慢げに指差す。金髪の横の三人もうなずいた。勇者様は不満げに言う。
「勇者の名前を語る奴なんてたくさんいるだろうけど、それをわざわざわざわざ本人に言うなんて、よっぽどのバカだな」
「バカ呼ばわりするな!俺は賢い!」
自慢げに自分自身を指さす。
「やっぱバカじゃん」
「なんだとー!・・・よぉーっし、こうなったら俺たちと勝負しろ!勝ったほうが本物の勇者、負けたほうがニセモノだ!潔く身を引け!」
「なるほど、それが目的ってわけか」
「勇者様、どういうこと?」
楓太には理解ができない。
「だから、ここで俺たちを倒しちゃえば堂々と勇者面ができるってわけよ。俺たちが身を引くことになるわけだからな」
「どうした、怖いのか?逃げるのか?」
「そのあからさまな誘い方、やっぱバカだな。いいぜ、その勝負受けてやる」
「ご主人様、よろしいのですか?」
「ああ。こんなバカに負けるわけないしな。魔王戦前のいい腕試しだ」
勇者様は指をポキポキと鳴らした。
「勝負は三本勝負!先に二勝したほうの勝ちだ」
「いいぜ。順番を決めよう」
勇者様は手招きして楓太とミントと頭を寄せる。
「・・・三本勝負ってどうすんだよ?僕と勇者様はともかく、ミントはメイドだぞ?戦えるわけないじゃん」
「わかってる。俺とお前が勝てばすむ話だ。それにミントも、だてに女帝やってたわけじゃないだろうしな」
「はい。お任せ下さい」
「でも・・・」
「先鋒は楓太、お前が行け。お前なら必ず勝てると信じてるぞ」
「勇者様・・・」
変な勇者御一行との“勇者”の称号を賭けた三本勝負が始まった。