バカと精霊(1)
勇者様・楓太・ミントの三人は旅をしていた。一行の行先を決めるのはミント。彼女が魔王の居城の場所を知っているというのだ。
「『サビレータマーチ』に行くのか?あそこに城なんてないだろう?しかも王都のお隣さんじゃないか。そんなところに魔王の居城があるのかよ」
「あります。王都の隣?だからこそ、いつでも攻めることができるのです」
『サビレータマーチ』という街は本当にさびれた街で、人口もわずか、それも年寄りばっか。家と言ってもみんな小屋のようなものばかりの街なのだ。
「あそこコンビニないもんな~」
「この世界にコンビニなんてあるか!」
楓太と勇者様はもともとこの世界の住人ではない。楓太は三年ほど前に、勇者様その半年後にこの世界にやってきた。二人は元いた世界からこの世界に召喚されたのだ。楓太はそのまま一年ほど放浪の旅をし行き倒れ、勇者様はその行き倒れた楓太を発見した。
『サビレータマーチ』まではかなりの距離がある。歩いて三週間はかかるだろう。しかし、そこにいるであろう魔王を倒せば勇者様たちの旅は終わる。そう思うとたいした距離ではない。
「勇者様、どうして草むらを避けているのですか?」
草原を歩いていた一行。草むらを必要以上に避ける勇者様に対して不審に思ったミントが尋ねた。
「草むらを歩くと、雑魚の敵が出てくるからな。そんな奴らといちいち戦ってたらきりがない。だから避けてるんだ」
「だから僕たち所持金が少ないんだよ!雑魚でもなんでも倒して金を稼がないと次の街は野宿だよ!」
「ならお前が戦えよな」
「ギクッ!!」
ほとんど戦闘経験のない楓太。いつも持ち歩いている木製の杖を使ったのは片手で数えるほどしかない。
「私、魔法使ってるとこと見てみたいです」
ミントはそう言ったが、目が完全に悪者の目だ。二人とも絶対悪ノリでそんなこと言ってる。
「決まりな。ちゃんと楓太が戦えよ」
そう言って悪そうにニヤけた勇者様は草むらにチョイッと足を踏み入れた。
ガサガサッ!
ゴブリン×3が現れた!
「ホントにやったな!?勇者様が戦ってよ!」
慌てた楓太が勇者様に頼んだ。
「俺のこの聖剣は、魔王と戦う時まで使わない約束だからな」
そう言って腰の聖剣を握りしめる。
「ミ、ミント・・・!」
「私はメイドですので」
ミントもはっきりと断る。
「楓太、お前はすごい魔術師だ。お前ならあのゴブリンくらい楽勝だろう?」
「ま、まあね!しかたがい、僕の本気を見せてやろう」
楓太は杖を構えて、ゴブリン×3の前に躍り出た。