バカとメイド(2)
カランカラン♪
慌ただしく誰かが店内に入ってきた。よく見ると勇者様だった。
「この店に“ストレートティー”はいるか!」
「“ストレートティー”?誰のこと?」
「この街のメイド界のボス、女帝、黒幕と呼ばれるメイドの通り名の一つだそうだ。どうやらそいつが魔王の居城の場所を知っているらしい」
「その人ってまさか・・・」
楓太が店の奥を見つめると、お盆にコーヒーを載せてさっきのメイドがやってきた。
「お待たせしました、ご主人様」
「おい、お前に頼みがある」
勇者様はメイドに言った。
「なんでしょうか?」
「俺たちを魔王の居城まで案内しろ」
「嫌です」
単刀直入に話を斬り込んだ勇者様はあっさりばっさり斬られた。やっぱりこのメイドが“ストレートティー”なのか。メイドはお盆をテーブルの上において、テーブルの上に腰かけて足を組んだ。メイドなのに・・・。
「私はメイドです。魔王になんて用はありません。勇者様がご自分でお探しになってください・・・コーヒーのお代は払って下さい。10000ベル(※この世界のお金の単位。価値は円とほぼ同等)になります」
「10000ベル!?ぼったくりじゃないか!」
「私、お金が大好きなんです」
堂々とそんなことを口にするメイド。そんな金は今の二人にはない。
「払えないのなら、この店で働いてもらうしかありませんね。ちゃんと金を返すまで、魔王探しは中断ですね(笑)」
不敵に笑うメイド。確かに性格に難があるようだな。楓太は困ってしまって何も言えないが、勇者様はそれでも笑顔だった。
「それは残念だな。楓太はここに残していっても俺としてはかまわない。俺一人で魔王を見つける」
「おい!」
「そして魔王の持つ隠し財産は俺のものだ」
隠し財産という言葉にメイドは反応した。楓太は隠し財産など聞いたこともなかった。黙ってたのか?違うぞ。あの顔は、嘘だな。僕にはわかるぞ。
「隠し財産?そんなもの聞いたことないです。嘘でしょう?」
「ああ、嘘かもしれないが、本当かもしれないな。魔王ってほどだから相当なもんを貯めこんでるって噂だ。お前が来ないんなら、すべて俺のものだ」
「僕の分は!?」
「・・・わかりました。国民の方々の平和のためならば、私は全力で隠し財・・・勇者様をお助けして魔王を倒しましょう」
メイドは勇者様にこうべを垂れた。
「絶対嘘だね!!完全に隠し財産目的じゃないか!!」
楓太が指摘したが、目がうっとりしたメイドの耳には届いていない。おおかた隠し財産の使い道でも考えているのだろう。
「よぉーし決まりだ。俺たちを魔王のとこまで案内してくれ」
「わかりました、ご主人様」
「その前に、お前、なんて名前?」
「私ですか。ミントと言います。お見知りおきを」
ミントは店の奥に戻って旅の準備を始めた。楓太は複雑な顔で勇者様に向き直った。
「隠し財産なんて嘘だろう?バレたらどうすんだよ?」
「所詮メイドだ。魔王の居城だけわかればいつでもトンズラできるだろ?」
勇者様御一行にメイドのミントが加わった。