バカと勇者様
楓太と勇者様が出会って二年が経った。あれから二人は一緒に旅を続けていた。おかげで二人は信頼しあい、いい旅の仲間になっていた。
「勇者様、そろそろ休憩しましょうよ」
「バカ、まだ宿屋出てから街の外にすら出てないだろ。歩き始めて十分くらいしかたってないだろ」
「でも、もう腹ペコですよ・・・。なんで朝食代を払う金もないんですか!?」
「何言ってんだ、資金の管理はお前の仕事だろうが!」
「いや~、魔術師って職業は出費が激しいんですよね~。最新の情報とか必要ですし」
「・・・リュックからエロい雑誌がはみ出てるぞ」
「何!?ちゃんとリュックの奥にしまったはずなのに!」
「・・・早く行くぞ」
大きく膨らんだリュックを道の真ん中に降ろしてなにやらガサゴソとやっている楓太。やれやれと首を振りながら歩き出す勇者様。楓太は真っ黒の髪であまり目立たない感じなのだが、自分の身長を超すほどの長い木製の杖を持っているので目立つ。服装は基本質素なローブ姿。楓太の中で唯一高価に見えるのは左手の人差し指にはめた深紅の指輪だろう。それに対して勇者様は藍染のマントを羽織っていたり、髪の毛もオレンジだったり、立派な聖剣を腰に帯びていたりとかなり目立つ背格好だった。ちなみに髪の毛は染めているのだそうだ。
勇者様の旅の目的はもちろん魔王を倒すこと。国王から直々に依頼されたらしい。それを果たすために魔王を探して旅をしているのだが、一向に魔王の居城が見つからない。ふつう魔王の城というのは最初からわかっていたり、簡単に見つけられるものなのではないかと思ったが、魔王もバカではない。そのおかげで勇者様は魔王を探す旅を二年以上も続けているのだ。
では楓太の旅の目的とは何か。彼の目的も魔王を倒すことなのだ。これには深い事情があったりするのだが、またの機会に。
二人はやっとのことで街の外壁までたどり着いた。この街の名は『ビッグナウォール』。巨大な外壁が外周を覆う要塞都市だ。外壁の外に出るための門にいる門番に向かって勇者様が話しかけた。
「そこのお前、魔王がどこにいるか知らないか?」
「あっ!これはこれは勇者様。申し訳ありませんが、存じ上げておりません」
「そうか」
「残念だったね、勇者様。やっぱり僕の占いで行先を決めてあげようか?」
「遠慮する!お前のそれは占いは占いでも花占いだろうが!誰でもできるわ!」
「そんな~。前、後ろ、前、後ろ、前・・・」
楓太が黄色い花の花弁を一枚ずつ地面に落としていく。
「前か後ろしかないのか!」
「・・・前、後ろ、前、後ろ!勇者様、行先は後ろだ!街に戻ろう!」
「はいはい。もうお前とは口をきかんかもしれない」
勇者様はあきれてしまった。首を横に振った。
「勇者様、一つだけいいですか?・・・この道をまっすぐ行った先にある街に、魔王の居城を知っているという者がいる、と噂で聞きました」
親切な門番がそう教えてくれた。どうやら行先は決まったようだ。
「この道の先は『ティータイーム』とかいう街だな。・・・もう四回目だ」
二年以上旅をしている勇者様は大陸のほぼすべての街を制覇しているのだ。行ったことない場所なんてない。もはや大陸マスターだ。
「僕あの町大好きだ!お菓子がうまいし、お茶がうまいし、キレイなメイドさんがいるし・・・」
「楓太、鼻血出てるぞ」
勇者様と楓太は、要塞都市『ビッグナウォール』を出発した。