勇者様と指輪
「勇者様―、楓太さんからの預かりものですー」
「なんだと?」
心底意外そうな顔をする勇者様。
巫女はそっと勇者様の手のひらに深紅の指輪を手渡した。
「・・・」
ああ、まったく、
後始末を俺に押し付けたわけか。
ルビーの奴、泣き喚くだろうな。
楓太のこと結構好いてたし。
「・・・・・・?」
「どうかしましたかー?」
「いや、なるほど、と思ってな」
勇者様は真紅の指輪をじっと見つめて頬を緩めた。
そしてその指輪を自分の右手の人差し指にはめた。
「おい巫女さん、姫様に俺の部屋を用意するように言っといてくれないか?・・・なにせ金がないんでね」
「わかりましたー」
巫女が塔から出るのに続いて勇者様も塔を出た。
「・・・お前が名付け親なんて、俺最大の汚点だな」
そう呟いて右手の指輪を見つめながら歩く。
「でもまあ、バカの割にはよく考えた方かな」
勇者様は歩く。
リングの裏側に刻まれていた、
新たな名を携えて。
『YUSYA(勇者)』の五文字を並び替えた、
『SYUYA』という名を携えて。
バカが必死に考えた精一杯の名を携えて、
勇者・シュヤ様は歩く。
完