バカと姫様(1)
一連の戦いを終えた勇者様・楓太・ミントは王都の牢獄内にいた。もちろん罪状は王子殺害。冷たい岩肌に囲まれて薄暗い牢の中は松明の明かりだけが生き生きとしていた。
「・・・勇者様、ゴメン」
何度も呟いたセリフをまた、楓太は小さく呟いた。
「まったくだぜ。俺に任せておけば事故に装って一件落着だったのにな」
勇者様は飄々と言ってのける。勇者様もミントも、内心王子を許していなかった。だからこそ楓太を責めるようなことは言わなかった。
「勇者様、あの大軍を一人でどうやったのさ?」
あの時、勇者様の起こした爆発で王国軍は将軍もろともほぼ壊滅してしまったのだ。そのおかげで魔王の居城に追ってはむかっていない。魔王はかろうじて一命を取り留めて、現在療養中である。
「ああ、あれな。あれには俺自身が一番びっくりだったぜ。てゆーかショックだったな」
「どういうことですか?」
ミントも気になるようだ。まったく、これで勇者様の武勇伝がまた増えてしまった。
「あの聖剣、姫にもらった奴だったんだが、実は超強力爆弾だったんだ」
「「!!?」」
楓太もミントも訳が分からないというような表情だった。
「あの聖剣は、魔王と戦う時まで抜くなと言われていた。なぜだったのか?・・・それは俺が魔王の前で、剣を抜くと仕掛けが発動してオレも魔王もろとも爆発して吹っ飛ばしてしまおう、っていう作戦だったんだよ。・・・まあ、結局失敗しちまったがな」
そう。勇者様は魔王の前では剣を抜かず、逆に王国軍の目の前で抜いてしまったのだ。姫は聖剣のことを知られるわけにはいかないだろう。自身の策のせいで軍を壊滅させてしまったのだから。
「姫のこと、信じてたのにな・・・」
勇者様はそうつぶやいた。松明の光が揺らいだせいだろうか。勇者様の眼元が光ったような・・・。
「・・・おい、衛兵!」
ふいに勇者様が牢の外にいる衛兵に向かって呼びかけた。懐に手を突っ込んで一通の手紙を取り出した。いつ書いたんだ?
「なんですか、勇者さ・・・なんだ、罪人」
牢に近づいてきた衛兵は勇者様に吠えるように言った。
「この手紙を姫様に届けてくれないか?大切な手紙なんだ」
明らかに怪しい。あまりにもあからさまに怪しい。衛兵もそう思って躊躇しているようだ。
「いや、しかし罪人が外部に手紙など・・・」
「俺は勇者だぞ」
凄味のある声で勇者様が言うと衛兵はびくっとしたようで、勇者様の手から手紙をもぎ取るようにして預かり、走り去っていった。
「お姫様に手紙ですか?いったいどういった内容なんですか?」
ミントは不思議そうに聞いた。楓太も同じことを疑問に思った。
「ラブレターだ」
勇者様は嘘をついた。
手紙を渡してから一時間ほどした後、慌ただしい音とともに先ほどの衛兵がやってきた。
「勇者様!釈放ですよ!」
「そうか、サンキュー」
どっこいしょ、と立ち上がった勇者様。楓太もミントも訳の分からないままに立ちあがって牢を出た。
牢を出たミントは早速衛兵に、
「ねえ、私の私物はどこにあるのでしょうか?」
「私物、ですか?」
衛兵に心当たりはなさそうだ。
「袋いっぱいの財宝はどこにあるのか、と聞いているのですけれど?」
「あ、ああわかりました!すぐに案内します!」
ミントも美しさと言葉の裏に隠された恐ろしさに気が付いた衛兵はそそくさと退散した。
「ご主人様、これでお別れですね。財宝をどうもありがとうございました」
「いやいや、あんくらいなんでもないさ」
「僕は!?最後まで無視するんですか!?しかもあの財産勇者様のじゃないでしょ!」
なにが「なんでもないさ」だ。偉そうに!
「楓太さんも、お疲れ様でした。・・・対して役には立ちませんでしたけど」
「最後まで棘があるなー!・・・でもそんなミントは最高のメイドだったよ!大好きだ!」
楓太の告白を無視して衛兵の後を追っていった。
勇者様と楓太は姫様と巫女のいる塔へと案内された。