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バカと王国(1)


三人は帰路についていた。迷路のような通路だったが魔王の使いが小屋の出口まで案内してくれたので迷うことなく外に出ることができた。魔王のもとを去る時には魔王の子供というモンスターが勇者様に笑顔で手を振っていた。勇者様も笑顔で手を振りかえした。あんな可愛くて優しそうな子供がいる魔王を倒すなんてことができるわけがない。これからも幸せに暮らしてほしいと思う。楓太もミントも手を振った。ミントまでご機嫌な理由とは、帰り際に魔王から宝石の詰まった麻袋を受け取ったからだ。ミントはその大きくて重い袋を肩から担いでいる。


小屋の中は手狭だったので、三人は魔王の使いに礼を言って小屋を出た。


「魔王さんってなんて素敵な方なんでしょう!」


「ミントご機嫌だな」


財宝が嘘だったってことがバレてたら、楓太と勇者様の命はなかったな。魔王に命を救われたって感じだ。勇者様は大きく伸びをした。


「さあ、王都に戻ろう。さっさと魔王のこと話さ・・・」


勇者様は言葉を切った。ある一方向を見たまま。楓太とミントもつられてその方向を見た。


街のはずれにあるこの小屋。その前に広がる草原。


その草原を埋め尽くすおびただしいニンゲン。


数千の軍勢で押し寄せた王国軍だった。


「なんだよあれ・・・」


勇者様は言葉を失った。魔王退治は勇者に任せたとばかり思っていた。


「急いで訳話したほうがよくないか?じゃないと魔王の城を攻撃するかもしれないぞ」


楓太が勇者様に言う。その通りだ。三人は王国軍と話をつけに行った。




王国軍は草原を埋め尽くしていた。太陽の光を受けてキラキラと光る甲冑。ガチャガチャと音を立てながら行進する兵士たち。明らかに臨戦態勢って感じだ。勇者様はその軍隊の将軍の前に通させた。


「勇者様!ご無事でしたか!」


そう言ってうれしそうな顔をする将軍だったが、目は笑っていない。心から思っているわけではなさそうだ。


「将軍殿のお耳に入れておきたいことがあります」


「ほう、何かな」


勇者様は膝をついて将軍に敬意を示している。したがって勇者様は将軍の顔を見てはいない。楓太とミントは勇者様の横で同じように膝をついているが、顔は上げたままだ。


「私は今、魔王に会ってきました。もちろん国王や王女様の願い通りに討伐しようとしましたが、魔王が心から詫びて、もう人間には二度と手を出さないといったので許してきてやったところでございます」


「なるほど、それで?」


将軍の言葉は驚くほど冷たかった。勇者様は言葉をつなげる。


「そういうわけで、これからはモンスターの脅威に恐怖することもないわけで、つまり、このような出兵はまったくもって無駄であるわけで」


勇者様は少し将軍を小ばかにしたような言い方をした。


「それで勇者様は魔王の言う事を真に受けてしまったわけですか?そんな明らかなウソに騙されて魔王に刃を向けようともしなかったわけですか?」


将軍は怒っていた。怒りで口元のひげが震えていた。


「ああそれならば、我らがここに来たのは間違いではなかったのだ。我々は勇者様がいくら待っても魔王討伐に行かないので、我ら独自で魔王の討伐隊を編成した。しかし、我らも魔王の居城を特定するに至らず、魔王討伐隊は一年もの間出番がなかったのだ」


将軍は悲しそうな表情をする。どうやら気性の激しい人のようだ。


「ひと月前、勇者様は魔王の居城を見つけそこに向かったという情報を得た時、我らがどれほど喜びに打ち震えたか!我らは勇者様に手を貸そう、勇者様のお力になろうと思いここに至った次第なのだ」


将軍はうれしそうな表情を浮かべる。


「だがしかし、ああなんということだ。勇者様は魔王に情けをかけようとしていらっしゃる!それではいけないのです。魔王はまた必ず民を襲います!魔王は倒すべき存在なのです!」


将軍は再び起こった表情を浮かべ勇者様を睨む。


「「「「魔王を殺せー!!」」」」


周りにいた兵士たちが叫ぶ。とたんに辺りは口々に叫びだした。


「「「「「魔王を殺せ!魔王を殺せ!」」」」」


楓太もミントも困惑した表情を浮かべる。だが勇者様は平静を取り戻していた。


「将軍殿、私からのお願いです。魔王たちをそっとしておいてあげてください」


「勇者様、それは聞けぬ相談だ。我らは今日、勇者様に代わって魔王を殺す。・・・すでに先鋒部隊を城内に送り込んでいる」


「なんだって!?」


楓太は叫んだ。早く止めないと魔王が!


「楓太、ミント、魔王のほうを頼む。俺がここを受け持つ」


勇者様はそう言った。どうやら将軍たちのやり方が気に入らなかったようだ。


「話長ったんだよな。勇者様、その将軍ボコッといてね!」


そう言い残して楓太とミントは再び魔王の城内に突入した。後に残った勇者様は王国軍全体を見渡す。将軍が一歩前に出て、剣を抜いて勇者様に向ける。


「勇者様、我らの邪魔をするというのなら死んでもらいますぞ。王国の意思に背く勇者など、求めてはいない」


「なら勇者なんて、こっちから願い下げだ」


勇者様は凄絶に笑った。



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