バカと魔王
勇者様御一行は、王都のすぐ隣にある街・『サビレータマーチ』に到着した。ミントの情報によるとここに魔王の居城があるらしい。街の様子は普段と変わらずほとんど人がいない。
「街っていうか、村って感じだな」
「この街の地下に魔王はいます」
ミントは街のはずれにある小さなぼろい小屋に案内した。勇者様と楓太とミントが入っただけでほとんど中がいっぱいになってしまうような小さな小屋だ。
「この小屋はなんなんだ?」
「この小屋のどこかに、地下に続く通路があるはずです」
「お前やたら詳しいな。どこでその情報手に入れたんだ?」
「街に来た占い師さんに聞きました」
「占いかよ!」
勇者様は深くため息をついた。占いで行先を決めるってなかなか勇者っぽいけど、悪く言えばバカだよな・・・。
楓太がテーブルの下をがそごそやっていると、隠し扉を見つけた。
「この先に魔王がいるのか・・・」
「嫌がらせで、ここから大量のポーションを流し込むっていうのは?臭いし溺れるしいい作戦だと思うよ」
楓太の驚くべき発言。バカの極みだな。
「オレらにそんな金はねぇ!それにほかにも抜け道があるに決まってんだろ!・・・ホントバカだな!」
「いい作戦だと思ったのになぁ」
楓太の頭がひねり出した最高の作戦は勇者様に軽くひねりつぶされた。
「さあ、早く財宝を奪いましょう」
ミントはもう完全に財宝狙う気満々だし。勇者という名を振りかざした強盗だな。そうとう性質が悪い。
またまた深いため息をついた勇者様に続いて一行は魔王の地下の居城に潜入した。
暗い通路が続く魔王の居城。雰囲気もそれっぽい作りになっていて、明かりと言えば松明の明かりくらいしかない。
魔王の居城というだけあって勇者様の行く手には数々のモンスターが襲いかかってきた。
「正義の鉄槌!」
カッコよく技の名前を叫ぶ勇者様だが、実際は火をつけた爆弾を敵に投げつけるだけなのだ。
ドドドーーン!
敵に反撃の隙を、勇者様に触れる隙さえも与えない。
正義とは名ばかりの狡猾な攻撃だ。
爆煙がはれると三人の前に立っているモンスターはいなかった。勇者様が特別に改良した超威力の爆弾。地下通路が崩れてしまうのではないかと楓太は心配した。
「魔王は近い、かな」
そんなことを言う勇者様の目は笑ってはいなかった。いくらモンスターとはいえ爆撃するのは心良いことではないだろう。ミントは無表情だった。楓太は真っ直ぐに通路の先を見つめていた。
「勇者様、行こう」
「ああ」
三人は物音を極力たてないようにしながらさらに先に進んだ。しばらく進むと少し開けた空間にたどり着いた。その部屋はひときわ明るく、中央には何か大きな影が見えた。
ついに勇者様は、魔王と会い対峙した。
魔王、第一印象はそんな感じだった。
漆黒の身体は筋骨隆々で常人の五倍もの大きさだった。その大きな背にはドラゴンを連想させる野性的な翼が生えていたし、少し含み笑いをしているような口元からは牙が覗いていた。
「来たか、勇者。ここに来るまでにずいぶん多くの魔物たちを斬り捨ててくれたな」
「正確には斬ってないがな。爆破だ」
そんな訂正どうでもいいだろ。勇者様は魔王の目前に堂々と立ち、魔王の顔を見上げていた。
「俺はお前を倒さなきゃならねえ。悪く思うなよ。人間を襲ったツケだと思え」
「弁解するつもりはない」
勇者様は旅の中で初めて腰の聖剣の柄に手をかけた。
「マジであんなのと戦うつもりかよ・・・」
楓太は物怖じしていた。だってまだ初期装備だぜ?
「・・・まあ落ち着け勇者よ。我は貴様と争うつもりはない」
魔王が言った。勇者様が怪訝そうな表情をする。ミントもいぶかしげな表情をしていたが、楓太だけは違う。魔王と戦わなくていいのか?ヨッシャー!平和最高!
「我が配下の魔物たちが人間を襲ったことは謝る。すべて我の教育不足だ。だが許してくれ。これからは人間を襲わないようにさせる。我は争いを望んではいない」
なんか拍子抜けだな。魔王がやけに弱気な発言だ。勇者様は納得がいかないらしく魔王に食い下がる。
「なぜだ?お前たちの目的は人間界を征服することじゃないのか?俺も王都も力で潰せばいいんじゃないのか?」
なんだこの状況?勇者様が魔王に王都を襲うように説得している・・・?
「我は愚か者ではない。勇者と戦って勝てるとは思っていない。万が一我が負ければ魔物たちは王国軍によって一掃される。一族の長としてそんなわけにはいかない。魔物を守るためには降伏するしかないのだ」
物わかりのいい魔王。こんなRPGは興ざめだな。だが勇者様は魔王のその言葉で納得したらしかった。
「賢い魔王だ。王都の連中には俺から話を通しておこう」
「すまない。助かる」
こうして魔王との戦い(?)は終わったのだった。