勇者様とニセ勇者
「むしろこの方がいい。はっきりさせようぜ。どっちが本物の勇者かってことを」
ニセ勇者が偉そうに言った。
「まあ本物は俺なんだがな」
勇者様もかなり強気だ。
「勇者、レオ!」
「おなじく勇者。名前はねえ」
勇者様には名前がない。というか忘れてしまった。
勇者の称号を賭けた対決もついに最終戦を迎えた。
「聖なる剣を受けてみよ!」
レオは腰の剣を抜いた。太陽光を反射し、鋭利な刃を勇者様に見せつける。
「俺は剣を抜かねえ。こいつはまだ、抜くわけにはいかねえんだ」
勇者様がこちらの世界に来て王城で訓練を受けている時に、姫からこの聖剣を授かったのだ。姫は渡す時に、「・・・~さん、この聖剣を貴方に渡します。この聖剣で必ず魔王を倒して下さい」と言った。何と呼ばれたのかは覚えていない。勇者様は「オッケー」と言った。姫は「この聖剣は魔王と戦う時まで使わないで下さい。抜かないで下さい」と言った。「なぜ?」と勇者様が問うと、「これは魔王を倒すための特別な力を持っているからです」と言った。だから勇者様はこれまで一度もこの聖剣を抜いたことはない。
「そうか。ならあんたの旅はここで終わらせてやるよ!」
レオが勇者の剣を構えて勇者様に斬りかかる。勇者様はポケットから小さな青いスイッチを取り出した。
ポチッ
・・・ドドドドッカーーーン!!!
レオの足元に仕掛けられていた小型の爆弾が一斉に爆発した。
勇者様の勝利。
「レオー!大丈夫か!?」
「生きてますか!?」
「神のご加護があるんことを!」
レオの仲間のジャックとアクアと聖職者のホワイトが倒れて真っ黒焦げのレオに駆け寄る。レオはゲホゲホッと咳き込んでいたが生きていた。勇者様は涼しい顔をして楓太とハイタッチをかわした。
「ゲホゲホッ!・・・爆弾だと・・・!?いったいいつ・・・?」
レオは少しだけ顔を上げて勇者様を睨む。
「うちのメイドさんがなんであんなに逃げ回っていたと思う?なんでしょっちゅうしゃがんでたと思う?」
勇者様が簡単なことじゃないかという感じで説明する。
「メイドが逃げ回っていたのは爆弾を設置するため!だからかわす度にしゃがんでいた、爆弾を埋めるために!」
ジャックがようやくそのことを理解した。ミントはメイド服の袖口をひらひらさせている。その袖の中に小型爆弾を隠していたのだろう。
「戦いの前にご主人様から受け取りました」
「ま、俺たちの作戦勝ちだな。魔王倒すには頭も必要だってことだ」
勇者様は頭を指さす。楓太は笑いが止まらず、ジャックをイライラさせていたが文句は言ってこなかった。傷ついたレオをジャックとホワイトが抱えて立ち上がった。レオの剣はアクアが持っていた。
「ゲホゲホッ・・・今回は俺たちの負けだ。だが、次はこうはいかんぞ・・・!」
ニセ勇者一行は荒れ地のかなたに去っていった。
「なんか恐ろしい敵ができたかもな」
「あいつらが魔王倒しちまえば楽なんだがな。勇者を名乗るのは勘弁してほしいぜ」
勇者様がぼやいた。ミントはフフッと笑った。
「さあ、もうすぐ魔王の居城に着きますよ。ちゃちゃっと倒して財宝を奪還しましょう」
「ミントは相変わらずだな。でももう魔王戦か。長かったな」
楓太は勇者様と旅した記憶を思い起こして懐かしく思った。