表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異端の奇跡でやり直し。~正教会が世界を染める前に、私が潰します~  作者: 綾瀬蒼


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/50

第14話 公告という刃


「証拠を“見せる場所”を作る」


私の言葉が書斎に落ちた瞬間、誰も笑わなかった。

笑えるはずがない。相手は、出していないものを「出した」と言い張り、紙を消し、言葉を曲げる。


勝つには――皆が見て、皆が覚える形にするしかない。


エリオットが机を軽く叩いた。


「場所は一つ。王城の公告板です」


「公告板……?」


「民が毎日見る掲示です。税も罰も、あそこに貼られた文字は“国が認めた事実”になる」


リュカが冷たく付け足す。


「紙を消される?」


「公告は消しにくい」


エリオットは即答した。


「掲示の控えが文書所に残る。受領証(=受け取った証明)も出る。改ざんしたら役所と喧嘩になる」


カイルが頷く。


「騎士団が警護できる。掲示の瞬間を守ればいい」


父が低く言った。


「教会が怒るぞ」


「怒らせます」


私は言い切った。

怒りは言葉を荒くする。手続きを雑にする。――雑になった瞬間が、こちらの勝ち筋だ。


私は紙に、短く書いた。


『私は誓文を提出していない』

『受領証と控えが出る形以外では提出しない』


「文は短く。言い逃げできない形で」


リュカが目を細める。


「短いほど、変な仕掛け(=術式)を入れにくい」


エリオットも頷く。


「短いほど、民が読む。説明が長いと、読む前に飽きる」


(そうだ)


私は説明で勝つんじゃない。

“事実”を先に打ち込む。




王城前の広場は、人の目でできた壁みたいだった。


城門前。商人、兵、貴族の従者、子どもまで――掲示が貼り替わるたびに皆が顔を上げる場所。


そこへ私が立てば、視線が集まる。


「ここで……やるのか」


父が小さく呟く。


「ここでやる」


逃げれば、教会の噂が先に広がる。

なら、私が先に“国の文字”にする。


文書所の法務官は無表情のまま申請書を受け取った。


「公告申請。内容は」


私は短く答える。


「誓文は提出していない。提出するなら、受領証と控えが出る手続きで。以上」


法務官の眉が僅かに動く。


「……正教会絡みだな」


「はい」


「なら尚更、形式を整える。控え二通。受領証発行。立会い署名」


ペンが走り、封蝋が押される。

受領証が差し出される。


――“提出していない”が、王城の手続きで固定されていく。


リュカが控えに封印印を押した。小さな音。いじれば割れるやつだ。


「これで改ざんは痕跡が残る」


「ありがとう」


掲示係が公告板へ紙を運ぶ。

その瞬間、広場がざわめいた。


「アルヴィス伯爵令嬢だ」

「正教会と揉めてるって……」

「え、誓文出してないの?」


私は掲示板を見上げた。


貼られた紙は、二行。


《公告》

アルヴィス伯爵令嬢セレナ・アルヴィスは、正教会より求められる「悔い改めの誓文」を本日時点で提出していない。

提出を求められても、王城文書所にて受領証と控えが発行される手続きが整わない限り、提出しない。


たった二行。


でも、この二行は強い。

“教会の言葉”じゃない。――“国の言葉”だ。


エリオットが私の耳元で言った。


「これで『提出した』と言い張った時点で矛盾が出ます。どちらかが嘘になる」


「嘘をつけない形を作った、ってことね」


「ええ。嘘をつくのは、証拠を出せない側です」




そのとき、人の輪の向こうで白い外套が揺れた。


聖女エレノア。


ざわめきが波のように彼女へ寄る。

“光”が来た――そんな反応。


聖女は微笑み、私へ手を重ねる。


「セレナ様。……ここまでして争いたいのですね」


私は微笑まなかった。


「争っていません。公告しただけです」


聖女の睫毛が一度だけ揺れる。


「神聖な誓いを、国の掲示板に……」


「形式だけなら問題ないはずです」


私は言葉を被せた。


「形式なら、受領証が出ても困らない。形式なら、控えが残っても困らない」


周囲の囁きが増える。


「形式って言ってたよな?」

「じゃあ何で嫌がる?」

「形式じゃないのか……?」


聖女は一歩近づいた。

あの冷たい空気が肌を撫でる。


「あなたは、繰り返すほど薄くなる」


私の視界が一瞬、ぐらりと揺れた。


(来た)


思考がほどける。今どこにいるのかさえ薄くなる――けれど。


私はもう、紙だけを信じない。


私は、ここにいる“人の目”を信じる。


私は公告板を指した。


「聖女様。あなたが『提出した』と言うなら――受領証を出してください」


空気が止まった。


受領証。受け取った証明。

それがないなら、提出は成立しない。


聖女は微笑みのまま、ほんの少し間を置いて言った。


「受領証は、神の御前では――」


「ここは王城前です」


カイルの声が落ちる。淡々として、だから刃みたいだ。


「神の御前ではなく、国の御前だ。国の手続きに従えないなら、この場に立つ理由もない」


人の波が動く。視線が聖女の背中へ刺さる。


聖女は微笑みを深くして、退いた。


「……三日後の祝福の儀で、お話ししましょう」


逃げた。


でも――逃げたこと自体が、広場に残る。


エリオットが小さく息を吐く。


「今の撤退は痛い。民は見ています」


私の胸の奥に熱が灯る。


(ざまぁは、相手を殴ることじゃない)


(相手が“言えなくなる形”を作ること)


私は公告板を見上げた。二行の文字が夕日に乾いている。


消されるなら、増やす。

奪われるなら、分ける。

信用を焼くなら、先に“国の目”に焼き付ける。


私は小さく言った。


「次は、大聖堂の中で折る」


聖女の“奇跡”を。

そして、私を焼くための色を。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ