【超短編小説】ヤンキー帝国
夏の爽やかな青空の下、校門を行き交う男女の高校生たちが一斉に足を止めた。
独りでいる者は口をポカンと開け、2人以上連れだっている者たちは呆然と見つめたり、ヒソヒソ話をしている。
校門では、誰かしらが何かしらの反応を示していた。そのように足を止めた高校生たちが見つめている先には、悠然と歩く3人の男子高校生の姿があった。
「ヤンキース帝国だ!」
突然、どこからか男子高校生の声があがった。次の瞬間、生徒たちの注目を集めている異質な3人の男子高校生の歩みがピタリと止まった。
「ああ?」
注目を集めている3人の男子高校生の1人、茶髪のモヒカン頭の男子高校生が右目だけを大きく見開きつつ周りを睨みつけながら甲高い声を上げた。
「誰がヤンキース帝国じゃあ!」
茶髪モヒカン頭の隣にいるスキンヘッドの男子高校生が、茶髪モヒカン頭に続くように言葉を放った。
「俺たちは泣く子も黙るヤンキー帝国じゃあ!」
茶髪モヒカン頭、スキンヘッドに続いて黒髪オールバックの男子高校生が周囲を威圧するかのように声を張りあげた。
そう、この3人こそ留年5年目の高校生グループ「ヤンキー帝国」なのだ。
そんな彼らが通う“うさぎ学園”は都内で最も偏差値が低い。もちろん、ヤンキー帝国の全国偏差値順位は最下位だった。
ヤンキー帝国と称する3人は、それぞれがあだ名で呼ばれていた。
茶髪モヒカン頭は「将軍」、スキンヘッドは「宰相」、そしてオールバックは「皇帝」と呼ばれていた。
「宰相」と呼ばれるスキンヘッドが、校門周辺で他の真面目な高校生たちを威圧的な目つきで見渡した。
「俺たちヤンキー帝国を舐めんなよ。ああ?」
宰相は周囲の高校生たちに向かって噛みつくように吠えた。そんな威勢の良いヤンキー帝国に対して高校生たちは怯えきっていた。
「おい宰相、行くぞ!」
「皇帝」と呼ばれるオールバックが宰相に声をかけた。
こうして、ヤンキー帝国の3人は、堂々と校門を闊歩して、うさぎ学園を後にした。
独り暮らしをしている、お年寄りのお世話というボランティアをするために……。
そう、ヤンキーも学校が終われば良い子かもしれない、そんなお話でした。
おわり