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四話

 スマホの振動が揺らいでいた視線を線路から引き戻させる。


 有名求人サイトから数件の着信。


 慣れた手つきで添付されたURLからサイトに飛ぶと、マイページから受信ボックスへ。


 新着は三件。書き出しはとても丁寧に謝辞で飾られ、次に目に入るのは『慎重なる審査』、『誠に残念ながら』と続き、『お祈り申し上げます。』と終わる。誰にも宛てられていない労わりの麗句。


 三件とも同じ文章のメール。重複や、間違えを疑うほど決まりきった言葉。


 見慣れた言葉。


 私はまた〝耳のない言葉〟を思い出していた。


 一方的で決まりきった会話。


 誰にも届かない私の言葉。


 私に返ってこない言葉。


 そんな言葉なら、いらない、かな。


 私も、いらない、だろう、な。


 私は誰なのだろう。どこにいるのだろう。どこにも必要ないのだろう。


――――居場所がない。




 慣れた落胆と共に、だらりと下ろした左手からスマホが滑り落ちた。


 スマホは角でアスファルトの地面を跳ね返し、黄色い線の方へ滑っていく。


 拾わなきゃ。――それだけを思った。


 私は前へ踏み出し、ごく自然にスマホに手を伸ばそうとした。


 ただ落とした物を拾うように。


 それはとてもありふれた日常。


 しかし、途端に誰かに腕を強く引っ張られた。


 慌てたような、制服姿。どこか見覚えのある女の子。


 どうしたんだろう。そんなに慌てて。


 中学生だろうか、学校には遅刻の時間だろうに。


 スーツ姿の男の人が何か必死に口を動かしている。


 私、なにか怒られるようなことしたっけ。


 何も聞き取れないや。


 危険なんてあるはずがない。


 電車の進入アナウンスなど鳴っていないのだから。


 この人たちは何をそんなに慌てて……。


 えっ――音がない。


 周りの声以外にも何の音も聞こえない。


 私は誰かの手とは逆の方向へ離れていくのを感じた。


 確かに私の腕は誰かに掴まれている。


 それなのに、私は……〝私〟を見ながらどんどん離れていく。


 視界がぼやけて歪んで、遠く――。


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