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帰りの電車に乗りながら、ぼんやりと翔太郎のことについて、あるいは彼の家族のことについて、考えていた。
夏休みだからか、車内には小学生や普段着姿の中高生らしき人たちが多い。大半はスマートフォンを触っていて、あるいはゲーム機で遊んでいて、互いを見ていない。
それは何も子供たちばかりではなく、私たちのような大人だって同じだ。ただ私のようにその小さなパーソナルコンピュータを持っていない人間だけが、この空間にいる沢山の人間のことを見つめていた。
どうして翔太郎は私の前に現れたのだろう。
彼は幽霊だったのだろうか。それとも彼もまた私にとってのIFだったのだろうか。
来月始めの診察の時に三浦先生に訊いてみるつもりだけれど、それまでずっときょう子たちが戻ってこないなら、先生は何と言うだろう。見えなくなったことで治ったと思われるのだろうか。
考え込んでいたからか、私の前にやってきてじっと顔を見ている男の子に気づかなかった。
「何?」
けれど男の子は私ではなくその隣の空席を見つめて笑うと、走って行ってしまった。
座りたかったのかな。そう思って右側を見たら、きょう子がいて笑いかけた気がした。
でもそれは本当に気がしただけで、何も見えない。ちゃんと空席で「すみませんね」とお婆さんがやってきて埋めてしまった。
私は紛れもなく独りだ。
もうきょう子たちは現れない。
今やっとそれが実感に変わって、どうしようもなく涙が溢れた。