会社の後輩
俺(鈴木一郎) ・・ プログラマー(30歳)
佐藤さん(佐藤碧) ・・ 同僚(25歳)
2人の甘々な話を。
眠い、寝たい。とにかく寝たい。ヘロヘロで帰社した。
昨日は朝5時起きして客先へ。結局、徹夜になってしまった。手際よいリカバーに大喜びしてくれたお客様がなかなか解放してくれず、お土産に見積もり作成を2本も依頼されて、自社に戻ったのが、17時。社長に結果報告をしたら、既にお客様からお褒めの言葉を頂いていたらしい、ご機嫌である。それなら報告させるなよ、社長。その後、総務の担当者に急かされ、交通費の清算を済ませたら、18時半。コーヒーを飲んで一息入れたら、社内には、数人しか居ない。溜まっている雑用を片付けたらもう20時になった。
(完徹の翌日、終電なんて洒落にならないぞ。なんとか2時間で片付けないと)気合を入れているところに佐藤さんが帰って来た。
「ただいまー」
「おかえりー」
俺の会社は帰社した時、「ただいま」と言って入って来て、社内にいる人間が「おかえり」と迎えることになっている。
「佐藤さん、直帰じゃなかったの?」
「それが、聞いてくださいよ」
「どうしたの?」
佐藤さんの上司は、俺の同期で、ヘマが多い。また、あいつのヘマで、パワハラもどきの事に・・・とちょっと警戒して話を聞いた。
「私、お客様の所に持っていった資料と、違う資料の電子データ持っていってしまいました」
「おっ、それはやっちゃったね」
パワハラで無くてほっとする。
「はい、自分でも情けないですよ。それで資料をメールで送るために帰社しました」
「お疲れ様。でもそれならチャッチャと終わるね」
「はい、チャッチャと終わらせます」
「それじゃ、頑張って」
「はい。鈴木さんは?」
「うん、見積り2本。チャッチャとは終わらないかな」
「じゃあ鈴木さんも頑張ってください」
「うん」
(佐藤さん、ちょっと変わっているけど、いい子だよな。ちょっと気分が上がったな)ウキウキと見積もりを作り出す。集中して一気に2本作製して、時計を見たら22時。2時間があっという間。
途端に襲ってくる睡魔と疲労感。それでも帰れない。来週の準備がある。
「あー眠い、だるい」
一旦、集中が途切れるとなかなか集中し直せない。
「あー眠い、だるい」
「さっきから、眠いだるい、煩いですよ」
「へっ?」
振り向くと佐藤さんがコーヒーを持って立っている。
「佐藤さん、帰ったんじゃ・・」
「ちょっと、良いものが見れたので、残っていました」
「そう、もう遅いけど平気?」
「ええ、家、近いんで。コーヒーどうぞ」
「あ、ありがとう」
「で、まだ終わらないんですか?」
「もうちょっとだよ」
「早く終わらせてください」
「はいはい」
佐藤さんが傍に居るのを忘れて残りの仕事を片付ける。
「終わったーーーー!!」
「お疲れ様です」
「佐藤さんのコーヒーのお陰で仕事が捗ったよ」
「でも、1時間掛かっていますよ」
「えっ、30分くらいと思った。しまった!電車無い・・・はぁ・・漫喫かぁ」
「終電ならありますよ」
「俺の家はちょっと遠いの!」
「あ、そうですか。じゃあ、私の家に来ませんか?」
「え、佐藤さんの家?」
「はい、この近くです」
軽く誘ってくる佐藤さん。他の女性社員の情報だと未婚で独り暮らし。まさか、彼氏持ちの女性がこんな誘い方しないだろう。眠いしだるいし、御厚意に甘えよう。
「ありがとう、佐藤さん。御厚意に甘えます」
「じゃあ、帰りましょう」
「佐藤さん、晩御飯は?」
「こんな遅い時間には食べません」
「じゃあ、まっすぐ帰れば良いね」
「はい」
2人で会社のビルを出る。
嬉しそうな佐藤さんが近付いてくるのを手で制する。
「えっ」
「ごめん、俺、臭いと思う」
「ああ・・確かに」
ちょっと距離を開けて一緒に歩く。
「タクシーで帰りましょう。鈴木さんの奢りで」
「はいはい」
タクシーを止めて2人で乗る。
「ところで、さっき「良いものが見れた」って言ってたけど、何?」
「内緒です」
「なんだかなあ」
佐藤さんの家は確かに近い。タクシー代1,000円掛からなかったので、千円札出してお釣りは運転手さんに。
「ここです」
こじゃれた感じのアパート。
「風呂トイレ別です」
なんか自慢げな佐藤さん。
「鈴木さん、さっさとお風呂に入ってください。洗濯物があったら洗いますよ」
「じゃあ、お風呂頂きます。洗濯は結構です」
仕事用リュックの中からお泊りセットを出して、お風呂に入る。さっぱりして出てくると、佐藤さんがカップを渡してくれる。
「麦茶です。もうカフェインは要らないですよね」
「うん、ありがとう」
「そこのソファに寝てください」
「うん、ありがとう」
「じゃあ、私がお風呂に入ります。覗かないでください」
「うん、覗かないよ」
「本当に覗かないでください」
「うん、大丈夫」
佐藤さんがお風呂に入る。その3分後に、俺は落ちる。夢の中で佐藤さんのお風呂を覗く。
目覚めると明るい。泥のように眠った。
「んぁーーー」
伸びをして起き上がる。(あれ、ここはどこだ?)
「起きました?」
佐藤さんの声で、思い出す。(そうだ、佐藤さんの家に泊ったんだ)振り向くと、ピンクのスウェットの上下の佐藤さん。(おっ、可愛い)仕事モードとのギャップにちょっと萌える。起き上がって、歯を磨き顔を洗う。リビングに戻ると佐藤さんがソファーを片付けている。
「佐藤さん」
「何ですか」
振り向いた佐藤さんを抱き寄せてキス。佐藤さんのピンク色の唇は柔らかく甘い。佐藤さんの身体がクニャクニャになってきたところで、唇を離す。
「もう、強引なんだから」
「ええー、昨夜の流れからいって「据え膳」じゃないの」
「もう・・・「据え膳」ですぅ」
・・・・・・
服を着たら、佐藤さんが迫ってくる。
「付き合ってください」
「俺の仕事の仕方知ってるだろ?」
「はい」
「まともな「付き合い」なんて出来ないよ」
「そ・れ・で・も、私と付き合ってください」
俺を睨む。
「判りました」
「やったあ!!」
はしゃぐ佐藤さん。(これは「据え膳」と言うより「落とし穴」だった?まあ、良いか)
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それから、佐藤さんとの付き合いが始まった。とはいっても俺が忙しすぎて、なかなか2人の時間が取れない。でも、佐藤さんは文句も言わず、俺の時間に合わせてくれている。「尽くす」タイプなのかな、と感じている。
「佐藤さん、今度の休み空いてる」
「はい、空いてます」
「映画とか一緒に行かない?」
「じゃあ、美術館」
「美術館??」
「ええ、絵を見るのが好きです」
「俺、上野くらいしか判らないよ?」
「じゃあ、連れて行ってあげます」
「じゃあ宜しく」
待ち合わせの場所は、何故か佐藤さんの家の最寄り駅。駅に着いたらメールが来て、家まで来て欲しいという。タクシーで佐藤さんの家に行くと、何故かピンクのスウェットの上下の佐藤さん。家に入ると、ソファーに座った俺の膝に座る佐藤さん。
「甘やかしてください」
「はいはい」
佐藤さんの頭を撫でる。
「もっと甘やかしてください」
「はいはい」
佐藤さんの背中を撫でる。
「もっともっと甘やかしてください」
「はいはい」
・・・・・・
気が付いたら3時間経っている。
「佐藤さん、昼ご飯食べに行こう」
「もちろん、鈴木さんの奢りですよね」
「うん」
「じゃあ、ランチセット食べにいきましょう」
2人で近くのファミレスへ行って、ランチセットを食べた。
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「鈴木さん、今度の休み空いていますか」
「うん、空いているよ」
「呑みに行きたいです」
「何が呑みたいの?」
「ウォッカ」
「ウォッカ??」
「ええ、強い酒が好きです」
「俺、バーに詳しくないよ?」
「じゃあ、連れて行ってあげます」
「じゃあ宜しく」
待ち合わせの場所は、またも佐藤さんの家の最寄り駅。駅に着いたらメールが来て、まで同じ。タクシーで佐藤さんの家に行くと、今日は黄色いのスウェットの上下の佐藤さん。ニコニコしながら俺の膝に座る。ウォッカはどこにいったのやら。
「甘やかしてください」
「はいはい」
・・・・・・
佐藤さんと俺、相性良いのかな?
「佐藤さん、晩ご飯食べに行こう」
「もちろん、鈴木さんの奢りですよね」
「うん」
「じゃあ、ディナーセット食べにいきましょう」
2人で近くのファミレスへ行って、ディナーセットを食べた。
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「仕事手伝ってくれないか?課長と部長の許可は取ってある」
「終わったらステーキ御馳走してください」
「ステーキ??」
「ええ、肉食です」
「俺、ステーキ屋さん詳しくないよ?」
「じゃあ、連れて行ってあげます」
「じゃあ宜しく」
また佐藤さんの家に居る。違うのはファミレスでステーキを食べてから来ている、という点。俺の膝に座って、蕩けそうな顔をしている佐藤さん。
・・・・・・
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ここまでくれば、俺でも判る。佐藤さんは女神だ。俺に過度の負担を掛けない様にしてくれている。時間も金銭的にも。この流れはそういう事だよな。
ある日、佐藤さんが言う。
「欲しいものがあります」
「何が欲しいの?」
「指輪」
「指輪??」
「ええ、アクセサリー好きです」
「俺、指輪に詳しくないよ?」
「じゃあ、連れて行ってあげます」
「じゃあ宜しく」
佐藤さんが女性に人気だというジュエリーショップに連れて来てくれた。佐藤さんがすぐに指輪を選ぶ。(うん?下調べ済か)
「これが良いです」
小さめのダイアが付いた細身の指輪。確かに佐藤さんの細い指に似合いそうだ。
「うん、綺麗だね」
「判ります?」
「綺麗なものは判るよ」
「良かった、そこまで鈍感では無かったのですね」
「何気に俺をディスってない?」
「いえ、そんなことはありません」
「良く似合っているよ」
「ボッ」と音がした気がした。佐藤さんがみるみる赤くなっていく。
「えっ・・その・・そういうこと言います??」
慌てた様な口ぶり。
「もう・・いつもと違う様なこと、言わないでください」
さすがの俺もこれで判らなかったら鈍感すぎる。
「指輪貸して」
「見て判るんですか?」
「いや、判らないけど判った」
「はあ、何を言っているんですか?」
俺は跪いた。
「佐藤碧さん、俺と結婚してください」
指輪を差し出した。
「ちょっ・・止めてくださいよ、こんなところで・・・恥ずかしいじゃないですか・・・・・・はい、幸せにしてください」
佐藤さんが指輪を受け取って、立ち上がった俺に抱き付く。
店内に拍手が起きた。