【金髪ツインテール武装メイド】
昆虫は素早い。
そして飛翔する。
それに対抗するべく、ナハティゲルには、殺虫剤メーカーの『金賞』から、様々な武装が発売されている。
例えば。
秒間20発を発射するマシンガン。
弾丸は、射出後に一定距離で飛散し、周囲に殺虫成分をばら撒く様になっている。
この武器は、オーナーのトオルが持つナハティゲルの副武装の一つ。
さらに、肩部のランチャーからは、ごく少量火薬を内蔵した誘導弾を発射し、指定区域に大量の殺虫成分を散布する。
そして、最大の主兵装は。
折りたたみ式の戦車砲のような砲身から撃ち出される。榴弾である。
そんな、真っ黒な甲冑と様々な武装を装備したナハティゲルだが、その下にはヒラヒラのエプロンドレスを纏っている。
駆除と掃除のハイブリット仕様であるナハティゲルの通常任務は、お掃除だからだ。
『マイロボット』社のかつての有名お掃除ロボ、サンバの流れをくむ、そのお掃除性能は折紙付きで、普段は、その性能を存分に活かし、お掃除ロボとして床や壁面を掃除している。
体高50センチあまりの、金髪ツインテールに、紅い瞳。
ややツリ目の、凛とした可愛らしいドールが、まさにご家庭の戦闘服といわしめるがごとき、メイドのドレスを装備し、クリーナーノズルを手にお掃除する姿は、ドールオーナーのトオルも、満足の可憐さだ。
しかし。
ひとたび、害虫を認識した時。
例えそれが、休日の真昼間であろうとも。
「――敵影を確認。迎撃モードに移行」
ガシャン、ガシャン、とナハティゲルの背部に折りたたまれていた砲身が展開する。
回転式の弾倉が60度ほど回り、砲身に榴弾が装填される。
その砲口の先には、トオルの『昼食』が、完成の時を待ちわびていた。
けれど、完成まであと2分30秒も早く、部屋の中に祝砲が轟いた。
ドォン。
中々の大音量だ。
同時に。
無遠慮に撃ち出された弾丸は、エアガン程の威力で。
それが、テーブルに留まっていた1匹のハエを直撃し、周囲に殺虫成分をぶちまける。
無論、ハエは目が良く、動きも速い。
直撃する前に、ハエは飛んで逃げようとした。
しかし、広範囲に広がった大量で高密度の殺虫剤から逃れる術は無く。
まもなくハエは地に落ち、息絶える。
だが、同時に亡き者となったヤツが居る。
べちゃ。
それは、断末魔だ。
トオルの昼食の。
砲撃の威力で吹き飛んだからだ。
陽気な柄の容器から飛び散った、麺、火薬、スープ。
そのすべてが、テーブルを離れ、次々に地面に不時着を決めていた。
「掃討を完了。通常モードへ移行。床面の水量異常、異臭を確認、強化清掃モードを開始……」
うぃぃぃん、すごごごごご。
今、トオルはトイレに行っている。
うんこの方だ。
だが、大音量に気づいたらしく、慌てて戻ってくる。
「おい、今、まさか……ああああっ!?」
時すでに遅し。
トオルのごはんは既に、この世を去った後だった。