*炎雷帝と反逆者達の話(8)
「まぁ、なんだ。
災難だったな」
報告書と始末書、その他諸々の書類を携えて報告に向かえば咏が小さく苦笑をしている。
口ではこういっているが多分災難だとは1ミリも思っていない。
この女はそういう生き物だ。
「別に自分で首突っ込んだわけじゃないのに向こうからやってくると思わなかったわ。
これ、なにか罰則になるの?
軍規軍規ってうるさい父さんも来てたけど……」
これで休み方を覚えるなんて無理よ。と愚痴りながら一応確認する。
元々軍規なんてあってないような私とそれに付き合ってる雷寿、それから翠はともかく本当に巻き込まれる形で駆り出された普段、真面目に勤めている父さんや心楽は可哀想だと思う。
「いや、事が事だからね。
報告書とまぁ、一応勝手に出ていったから反省文くらいだよ。
そんな事より、普段雷寿くんに丸投げしてすっぽかす報告に春告が直接来たって事は聞きたいことがあるんだろう?」
「話が早くて助かるわ。
ねぇ、アレ、何?
なんで日本であんなものが大量にあるわけ?」
私の懸念事項に咏がないない、と手を振って答えた後でニヤリと口角を上げて問いかける。
聞きたいことにおおよそ検討がついてるくせに意地が悪い。
それでも聞かなくてはならない。
この日本で、なぜあんなマシンガンのような物が何十丁も入手し運搬することができたのか。
そして、あれは何を目的にした、どういう集団なのか。
事と次第と場合によっては私が夜勤をしなければならない。
手を汚すのは今更だが手を汚すに当たっては準備をしなければならない。
特に、雷寿に知られる訳には行かない。
雷寿に見捨てられたら、私はきっとこの私のままでは居られない。
「ある程度は察しの通りだよ。
反政府組織、しかも海外マフィアと繋がりがある組織の手の物だった。
ある程度場所は特定してある、頼めるか?」
「拒否権なんてないでしょ。
急ぐなら根回しはそっちに投げるわよ」
からからと無害そうに笑う咏の目は笑っていない。
"必ず、1人残らず殺してこい"と言葉にしない命令が聞こえた気がして溜息を着く。
机の上に広げられた地図を奪うようにして懐に突っ込む。
こっちでやるから早く行け、ということなのか執務室の窓が開かれる。
「頼むね、翠炎帝」
笑顔のままの咏にタヌキめ。と言う悪態を小さくついて窓枠を蹴って月のない空へ舞い上がる。
背を彩る炎の翼を広げて遠く遠く、空をかける。
鳥にでもなったような心地だがどちらかと言うと用向きは戦闘機だなと思うと気持ちが萎える。
「プリン食べたい」
報告前に報告頑張ったら雷寿が用意してくれると言っていたミルクプリンに思いを馳せる。
前に食べた時にはつるりとした食感に優しい甘さがとても美味しかったのを覚えている。
遠くに潮の香りがする。
彼らに朝はない。
可哀想だけど、政府に楯突いたのだから、仕方ない。
「運が悪かったね」
1部の見張り以外が寝静まっている目的の倉庫の側へ降り立つ。
当然のように歩いていれば見張りが目敏く見つけて銃を向けてくる。
彼らが引き金を引くより早く颶嵐で作った空気の塊で壁に叩きつける。
デパートの時と違って手加減の必要が無いので乱暴に叩きつけた異能は人の身体には強すぎたようで、壁に赤い染みを作り、その足元に皮が裂けて砕けた骨と肉が混ざり合い原型を留めない赤黒い肉塊が落ちている。
見つけ次第同じ方法で壁に叩きつけて殺していく。
原型は分からない方が面倒がなくていい。
殺人、と言うにはあまりにも作業感が出ているがもう何十年も災害獣という天災を引き起こす超常のものと戦っている私にただの人を始末するなんて本当に作業以外の何物でもない。
「ここが済んだら、貨物船沈めて……この家は……どうしようかな」
暇すぎて独り言を零しながら歩く。
1番奥の部屋にいる人の頭でもあのテロリストの直属の組織の長の庭にでも投げ込んで済むなら面倒がなくていいのだけれど
でも、私は"1人残らず殺してこい"と言われている。
面倒だけど仕方ない。
彼らはただ、運が悪かったのだ。
それに、今回は私もちょっと怒っている。
雷寿を危険な目に合わせた。
それから、小さな子供も巻き込んだ。
生きてでも死んでても価値がないならより害のない死んでもらう方を選ぶしかないのだから。
私達を巻き込まなければ、こんな理不尽に殺されずに済んだのだろうと思うとやっぱり運が悪いのだろう。