*炎雷帝と反逆者達の話(7)
「雷寿!!」
「承知してますよっ!!」
発狂したテロリスト達が銃を乱射する直前、名前を呼んだ雷寿がフロアのブレーカーを落とす。
同時に颶嵐でテロリスト達の指先を斬り飛ばし、人質の周囲を暴風の防壁で囲む。
耳を劈くような悲鳴がそこかしこで響いている。
ちょっと指がちぎれたくらいで大袈裟な、と思わなくもないが突然ちぎれたらそれはそれで怖いか、と一瞬違うことを考える。
割りと近くで鈍い音がするのは、翠が手当り次第に周囲の動くものを殴り飛ばしてる音だろうか。
呼んだのは失敗しただろうか、と溜息をつきそうになるのを我慢していると優しく誰かが頬を撫でる。
「……ッ!!」
「俺だ。
怪我はないな?」
颶嵐の探知をかいぐぐられたのかと反射的に身を硬くすればすぐ側で聞きなれた声が聞こえる。
「父さん……?」
「無事そうだな、心楽もいる。
制圧したら警察の突入前に逃げるぞ」
暗闇に目が慣れると見慣れた顔が安心したように緩み、頭を撫でられる。
父さん達みたいに近しい人は気をつけていないと無意識に颶嵐の情報を選別した結果漏れるなんてのはまぁ、ある。
普段はそれなりに注意を払っているが思ったより余裕がなかったのかもしれない。
差し伸べられた手に捕まって立ち上がろうとするとそのまま抱えあげられる。
「あと何人だ?」
「……翠が今殴り飛ばしたので最後」
暗闇であることなど関係なさそうな足取りで歩く父さん……自称パパの翠と違い書類上私の正式な養父である司馬の問いかけに小さく溜息を吐いて答えれば、分かった。という返答の後、息を吸った父さんの口から咆哮が迸る。
ウォークライと呼ばれるもので異能がない人間にも使えるが主には戦闘や試合の前に気持ちを高ぶらせるために使うはずのものを完全な撤退の合図として使っているらしい。
ビリビリと空気が震える咆哮の後、心楽の笑い声が響き、そのすぐ後に雷寿が離脱した気配を感じる。
「さて、忘れ物はないか?」
「荷物があるわ、後での回収がいいかしら?」
「すぐ分かるなら取ってこい」
ふぅ。と息を吐き出した父さんに行ってこい。と下ろされて背中を叩かれたのでそのまま颶嵐の探知を頼りに走り抜け、自分と雷寿の鞄と静恵姉さんのプレゼントを両手に抱えて離脱せずに待ってくれていた父さんの広げた両腕に飛び込む。
荷物のように肩に抱えあげられて走り抜ける父さんと共にフロアを離脱する。
そのまま雷寿が支配下に置いた電子ロックキーが解除された従業員通路へ転がり込む。
「時間稼ぎは、必要なさそうですね。
このまま裏口から脱出しましょう。
心楽さん、お願いできますか?」
殿を務めた雷寿が後ろ手に扉を閉めて薄明かりの中でメンバーを一瞥してから電子ロックが作動したのを確認すると柔らかな口振りで心楽に話を振っている。
当の心楽は合点ですよ!とにこにこと先頭をきって進もうとする。
「父さん、私が先行するわ。
心楽じゃ、残党がいたら対処出来ないでしょう?」
「問題ありませんよー、これでも対人特化の異能持ちなんですからー
むしろ人間相手なら春告さんよりずっと強いですよー」
俵担ぎされたままの姿勢のまま父さんの肩を叩いて下ろして、と訴えればニコニコ顔の心楽に春告さんは今日非番ですよねぇ?と確認される。
非番なんだから大人しくしていろ、という事なのだろう。
「帰ったら全員始末書だろうな」
父さんの小さな苦笑がこぼれた。