*炎雷帝と反逆者達の話(6)
用意された椅子に腰掛けてから集中するために目を閉じる。
気付かれぬようにしかしこの建物とその周辺へ颶嵐をフル稼働させた結果得た状況を元に状況を分析する。
まず犯人は30人前後
他のフロアの制圧はされていないがこの階へ続く全ては防火シャッターが降りており、非常口には見張りがいる。
中央の吹き抜けになっているエレベーターも銃を持った犯人達によって侵入は容易ではない。
外に状況は伝わっているようで近隣階の客の避難と並行して他のフロアの従業員が連絡したのだろうか警察のサイレンが遠くに聞こえる。
混雑しているはずの道を縫うようにして道交法と速度制限なんて知らんと言わんばかりのこちらへ向かって爆走する暴走車は恐らく翠の車だろう。
誰かがリークしたにしては早すぎるマスコミの車と思われるものもある。
私と雷寿だけが生存条件で全員殺していいなら30人くらい余裕で制圧できるが生け捕り、かつ人質の無傷解放となると難易度が跳ね上がる。
……けれど、やるしかない。
まずはここにいる指示役の目が届かない非常口の見張りに眠ってもらおう。
加減を間違えないように、弱すぎず強すぎないように颶嵐で作り出した圧縮した空気の塊を1番遠い見張りの顎へ下から打ち上げるようにぶつける。
衝撃で後頭部が壁にぶつかるように調整した甲斐があって威力が足りなかったかと思ったがぶつけて蹲ったあとそのまま崩れ落ちるように意識を失ったのを確認する。
この1回でコツと要領を掴んだのであとはタイミングがあった瞬間に颶嵐を叩き込みフロアの隅々までいたテロリスト達の半数を無効化する。
異能の存在を知らない彼らからしたら透明人間に通り過ぎざまに突然アッパーカットを食らったような感じだろうか。
私達が居合わせていなければもう少し目的に近づけたかもしれないのに哀れだなとは思う。
目視出来ない範囲のテロリストを制圧しきってさて、ここからどうするかと思考をめぐらせる。
出来れば何か……そう、人の意識が逸れる瞬間が欲しい。
大きな窓のないフロアだから電気でも落とせば良いだろうか?
雷寿に目を向けると不服そうな、あるいは帰ったら説教が待ってそうな非常に不機嫌な顔でこちらを睨んでいた。
私と目が合うと深く深くため息をついて肩を落とすが諦めたように天井を仰ぐ。
雷寿が建物の電気設備を支配する前、騒々しい音を立てて視界の端で蒼銀が舞った。
「春告を放せ」
咆哮の後響いた聞いたことも無い低い声に目線を向ければ1つに結わえた美しい蒼銀の長い髪を乱してギラギラと獲物を狙う肉食獣のように輝く瞳で周囲を睨め付ける。
「もう一度言う、俺達の子供を返せ」
グルグルと唸り声が聞こえてきそうな殺気に当てられたらしいテロリスト達の膝が震える。
……これは、不味い。