*炎雷帝と反逆者達の話(5)
「な……っ!!
お前ら、僕の可愛い娘の命の保証が1億ぽっちな訳ないだろう!」
「春告が1億程度の女だと思ってるんですか、不当です!!
安全保証で5億でも安いくらいですよ!!
今すぐそんな安価をつけたことを謝罪してください!!」
この2人は一体何を言っているの……?
犯人の要求に金額が高いとかまだあるのかとか文句を言うのかと思った私の予想を裏切って訳の分からない理由で翠が文句を言い出したなと思ったら間髪入れずに床を叩くような靴音と共に雷寿が犯人に詰め寄る。
いや、本当に何してるの……?
1億、解放じゃなくて殺さないであげる。レベルの話にしては十分な金額だと思うのだけれど、私がおかしいのだろうか。
いや、たぶん、というかどう考えてもこの2人がおかしい。
父さんも静姉さんもこんな事でキレたりしない。
え、本当になんでそんな今にもその頭ねじ切ってやるからな、みたいな顔してるの?
困惑する私を他所に翠が首を洗って待ってろ、と宣戦布告して一方的に通話が切られる。
頼る相手を間違えたかもしれない。
「ですから、こんなに美しく優しく強い私の女神にそんな端金でどうこうしようとするなんて烏滸がましいって言ってるんですよ。
と言うかですよ、そもそもなんでいつまでも立たせてるんですか?
その銃口も下げて今すぐ地面に平伏するべきです。
臥して慈悲を乞うべきです、何してるんですか、早く頭を下げなさい。」
「……雷寿、黙って座りなさい」
しばらくぽかんとしていたが雷寿の声に我に帰る。
後ろにいるリーダー格っぽい男がドン引きしている。
そりゃあそう、と思いつつ雷寿に大人しくしているように伝えればすごく嫌そうに渋々その場に座る。
すごく文句を言いたそう。
雷寿、自分も人質でこの場の全員の命を守らないといけない事を忘れてないわよね……?
「ほら、わかったでしょ?
その子を放しなさい」
ぽかんとして泣き止んでいた子供の解放を促せばよく分かってない顔で男が少女から手を離し行きなさい。と告げれば直ぐに母親の元へ走りその腕の中へ帰り着く。
……あんな風に私も愛されたかった。
小さな痛みを無視するように目を閉じてからもう一度目を開く。
これでいい、戦うしか私には出来ないのだから。
私が必要とされて父さん達に愛してもらえるのは、戦えるから。
しっかりしろ。
短く息を吐いて促されるままに誰かが気を利かせたどこかからか持ってきたらしいパイプ椅子に腰掛ける。
さぁ、これで場は整った。
終わらせましょう。
この茶番を。