*炎雷帝と反逆者達の話(10)
結果から言うと保護した子供は植物を操る演目を有していた。
咏からは颶嵐で調べられるのにサボるなと文句を言われたがそんなのは私の業務範疇外だ。
そもそも、あの仕事だって適任が居ない、と言うだけで私の仕事じゃない。
不機嫌なまま部屋に戻ると笑顔の雷寿の顔が瞬時に曇り、温かい紅茶と作っておいてくれた牛乳プリンを用意して食べるように促してくる。
そんなに顔に出ていただろうか。
「お疲れ様でしたね」
雷寿は根掘り葉掘り聞かない。
過去には根掘り葉掘り聞かれたが私が頑として口を割らないと分かってからはただ労う、という事にシフトしたらしい。
「ねぇ、雷寿」
「なに?」
名前を呼べば少しだけ嬉しそうに表情を崩した雷寿が上機嫌に応える。
2人だけの室内なので口調が砕けて昔のようにフランクになる。
「……私のこと、好き?」
「もちろん大好きだよ、愛してる。
例えそこが地獄の果てだろうと、春告が傍にいるならばそこがボクの極楽浄土だと断言出来るくらいには愛してるよ」
脈絡のない問いかけにこれ以上ない笑顔で足りない?と問い返してくる。
雷寿はいつもこうやって無償の愛情をくれる。
私からあげられるものは何も無くても、ただ愛してくれる。
「怖かったね」
いつの間にか隣にいた雷寿が抱き締めてくれる。
包むような優しい抱擁は雷寿の体温で全身がじんわりと温まる。
そうやって抱き締められると痛い事も分からなくなった傷が痛むような不思議な心地がする。
耳元で雷寿の心臓が規則正しい音を刻んでいる。
優しく撫でられた頭も親の愛を信じて疑わなかった子供の頃に戻ったような気持ちになる。
「春告はいつも矢面に立ってるからみんな忘れちゃうけどこんなに小さくて細い女の子なのにいつも誰かの命を背負わされて
逃げられないようにして戦えっていつも期待されてたらしんどいよね」
静かに目を閉じて雷寿に身を預ける。
偉いね、頑張ったね。とただ優しい時間に意識を溶かすように耳を傾ける。
この愛があるから、私は折れずに戦える。
この優しさがあるから、私は泣かずにいられる。
この、温もりがあるから私は世界を憎まずに居られる。
「ありがとう」
「どういたしまして。
頑張った春告はうんと甘やかしてあげるね」
目を開いて雷寿を見上げれば満面の笑みが返ってくる。
ただし、次に続いた言葉に体が強ばる。
雷寿の手にはプリンの容器とスプーンが握られている。
「はい、あーん」
「自分で食べれるわ」
手ずから与えようとする雷寿の手からプリンを回収しようとして失敗する。
口に入れられたプリンは予想通りじんわりとした優しい甘さがある。
もぐもぐと咀嚼しながら雷寿を睨む。
カラカラと楽しそうな笑い声に怒る気が失せて溜息をついてしまう。
「ねぇ、春告
……おいしい?」
ようやくプリンを奪い返して追加でプリンを口に入れれば雷寿に呼び掛けられて視線だけで応える。
何かを言いかけて結局プリンの味を聞いてきた雷寿の口にもプリンを突っ込んでからもう一口食べる。
一瞬驚いた顔をした雷寿がすぐにとろけるような笑みを浮かべる。
もっとそういう顔したらモテそうなのに、何故か外では仏頂面でいることが多い。
あのテロリストもその顔面で籠絡出来そうだな、と考えながら最後の一口を口に入れる。
「ごちそうさま」
「お粗末さまでした」
容器をテーブルに置けば満足そうな雷寿がテキパキと片付けてくれる。
まだ湯気を立てている紅茶は少し温かった。