俺ってばすごい(無言
「行ってしまった……。にしても恐ろしい人だった……」
最初に来た時は、こんな小柄な方がcランクのキルベアーに勝てるのかなと、思っていたけれど、結果はこの通り。
心臓と脳の部分が真っ二つになっている。少し気持ち悪いほどに完璧な断面だ。
それに、使っていた魔法も異常だった。殺傷力が取り除かれた【ウィンドカッター】なんて、どんなに魔力操作に長けているのか。【ブースト】の効果二倍や、予備動作ゼロの【スラッシュ】など。仕舞にはヒール系統最上位の【パフェヒール】なんて、初めて見た。
どれもこれも桁外れな、彼の底知れぬ戦闘能力は、少なくとも国の治安部隊は敵わないだろう。
「……うっ……ここは?」
「ハク!起きたのね!良かった!」
私は、安心のあまりハクを抱きしめた。
「お、おおう。大丈夫だよ。……あれ?どこも痛くない?」
気絶するまで自分の状態を知っていたのか、どこにも傷がないことを不思議がっていた。
自分の体をペタペタと触っている彼女が、可愛らしい。
「どうなってるの?確かキルベアーに飛ばされて……そうだ!キルベアーは!?」
「キルベアーはある冒険者さんが倒してくれたの。それにハクの体の傷も治してくれたのよ。」
私は、ハクが起きるまでの出来事を丁寧に伝えていった。
「……その人が十分凄いのはわかった。で、一つ質問がしたいんだが、良いか?」
私はOKの意味で頭を縦に振った。
「じゃあ一つ目。黒のコートと、マフラーをしていなかったか?」
私が彼を見たときに一番に目に入ったので覚えている。頭を縦に振る。
「……じゃあ二つ目。青みがかった黒の髪の毛に、灰色の眼をしてなかったか?」
髪の毛に綺麗だなぁと眺めていた記憶があるので同じく頭を振る。
「…………じゃあ最後。身長が貴方より低く無かった?」
そう。それが一番印象に残ってた。私より数センチぐらい低かったのだ。
「うんそうだね。初めて見た時はびっくりしたよ」
「……ハァァァ〜。アーちゃんその人多分MMランクの人だよ。」
「えっ!?あのMMランク!?世界に11人しかいない?」
「そう、その1人。確か五年前に十五歳以上の全人類の間で、行われた大会で優勝した人。ええと、呼び名は確か〔沈黙のルーカーン〕だったはずだよ。」
(沈黙〕は、人と一切の会話を行わず、まるで像のやうに微動だにしないことで、〔ルーカーン〕は戦い方が、昔栄えていたのルークム一家の戦い方にそっくりでその名前がついたはずだ。
「へー。知らなかった。そんな名前だったんだね」
「まぁ本名じゃあないけどね。あくまで呼び名だから」
初耳だなあと、感心していると一番大事なことを思い出した。
「そうだ!いまからラナマ街に行かないと!」
「? 急にどうしたの?」
そうか、ハクは知らないんだ。
「で、彼のテレポートの行き先をアナライズで特定したの」
「うゎぁ。それ完全にストーカーだよ。処されるべき行為だよ」
「それに分かってないようだから言うけど、彼は関わりたくないから行き先や名前……は違うか……。ともかく別に、わざわざお礼をしなくても良いんじゃない?」
まぁ関わって欲しくないじゃなくて、関われないが正解なんだが。
しかしそんなことはお構いなしに、アーリンは唯我独尊と違和感ばかりに、頑なにお礼をしたがっていた。
「でも、人に助けらたら必ずお礼をするって、お父さんと約束しているもの。お礼をしない道はないわよ」
「はぁ……。まぁ良いんじゃない?別にお礼すること自体は失礼じゃないし」
ハクは何故か呆れ気味に、私の意見を肯定してきた。
「そうと決まれば早速行きましょう!」
「また明日ね。今日はもう日が沈んでしまうし」
グルるるる
「そ、そうね。腹の虫もうるさいし……」
「フフッ。じゃあ宿に戻りましょうか。」
「いつもの宿にれっつごー!」
「おー」
そんな彼女らを見事に森の中に置き去りにした彼は、クエストの達成を知らせるために、ギルドに来ていた。
「お待たせしましたー!次の方どうぞー!」
元気いっぱいな受付嬢の声が遠くに反響して聞こえてくる。
俺は真っ直ぐと歩いていく。
「カゲルさんお疲れさまです。それではクエスト達成の証拠品の提出をお願いします」
俺はゴソゴソと小さくしたミノタウルスも出そうとする。が、なかなか取り出しにくく、時間がかかってしまった。
不意に後ろの列を見れば、沢山の人がこちらを見ていた。
迷惑を掛けているかも知れないという焦りから余計に時間がかかってしまった。
絶対みんな俺のこと「のろまだな」とか「なんだこのガキとか思ってるよ……。
『なんか小さい子供がもたもたして可愛いなぁ』
『和むわ』『僕も可愛さでストレスが軽減されるよ』
『このためだけにこの時間帯に来てるんだ……』
急いで物を提出してからささっと列から外れる。
「あのー。番号札忘れてますよー」
「あっ、す、すみま……」ドン
「なんだぁ?このちっさいガキ?いってえなぁ……」
急いでいるあまり周りが見えず、2m越えの大男にぶつかってしまった。
「痛いなぁ?人にぶつかった時はどうすんだぁ少年?」
「ご、ごめんなさい」ボソッ
「ごめんなさい?はっはっはっ!そんなんで許されんなら治安部隊はいらねぇつうの!」ドン!
「っ!」
思いっきり突き飛ばされ、壁が壊れてしまった。大男はゆっくりと近づいてくる。歩くたびにドスンドスンと、そんな音が聞こえてきそうだ。
「何すれば良いのかわかるよなぁ?」
「……」
「わかんねぇのか?金だよ金。金を渡せよ。持ってる金全部。」
「……」
「そうすれば許してやるよ。ほら早く出せ」
こ、怖い。この人めっちゃ怖い。めっちゃ喋るじゃん。怖いよ。
お金なら渡しても良いけど、そんなに喋らないでほしい。俺喋れないし。コミュ症だよ?知らないの?
「ちっ。なんとか言えよっ!このガキャァ!」ゴッ
「がはっ! ……」
肺の中の空気が全部外に出る。息苦しい。これ以上喋られないように渡してしまおう。
じゃらじゃら スッ
「お、分かってんじゃねぇか。むっ!」
大男の口には仄かな光が点っていた。突然喋れなくなったせいで戸惑っているようだ。
(なんだ!?口が開かない!?どうなってやがる!?)
俺は、瓦礫を支えにしながらゆっくりと立ち上がる。息も整ってきた。
喋った時は怖かったが、喋らないのなら話は別。口撃の仕合は苦手だが攻撃の仕合なら得意分野だ。
スッと睨む眉を寄せ、目尻を上げ、獲物を狙うように。
睨まれた大男は、動物の本能というべきか。危険の察知はできたが、気のせいだと吐き捨てた。
(別に怖くなんかねぇ。さっきと同じでもう一発ぶっ飛ばせば!)
開かない口で微笑んだせいで、顔が気持ち悪いことになっていた。
思わず睨んだ顔が少し緩んで、うわって顔になってしまった。
(おらぁ!もう一回無様に寝転びやがれ!)
大男は腹を殴って、宙に浮かせるつもりのようだが、同様のせいか、スピードが緩んでいた。
俺は体を右にずらして、二つの魔法を発動させる。ウィンドの魔法だ。
キルベアーの時のように宙に浮かせる。俺もジャンプにして、大男に追いつく。
10メートル程飛んだところで、勢いは止み、落下に入っていた。もちろん大男はパニック。
(うわぁぁぁ!どうなってんだぁぁあ!)
叫ぼうとするが口が開かないため、声は体内で共鳴するだけで、外には出なかった。
パニックになって身動きが取れないところに、大男の後頭部を掴み、落下に合わせる。このままで彼の顔面は地面に激突だ。
(ぎゃぁぁ!!死ぬ死ぬ死ぬ!なんでこんなことに!)
地面まで5メートル、4メートル、3、2、1。
大男の意識はそこで途切れた。
周りの人もこれはもうダメだ、と思い目を瞑っていた。
ポヨーン
「「「「「え?」」」」」
ポヨーン ポヨーン ぽよ ぽよ ぽよ
大男は地面に激突した、が。地面は硬くはなく、柔らかくなっていた。まるでスライムのように弾力性を持っていた。
そのおかげで大男は、地面でポヨポヨ飛び跳ねている。シュールだなー、人形のようにぐねぐねに飛び跳ねていた。
そう、もちろん俺がやった。そのまま頭を潰すのもグロいしな。それに、そんなことやったら俺が捕まっちゃうし。
魔法で元に戻して、大男を回収。縛ったのちに治安部隊に任せた。
罪は窃盗のみで、ギルドの壁や、そこら辺の壊れたものは俺のせいだ、と言った。まぁ元といえば俺がぶつかったのが原因だし。
それに、治安部隊に捕まったら所持金は全没収、ギルドに預けているお金も8割取られる。出所したときに、借金なんか抱えていたらかわいそうだからな。
幸いお金は腐る程あるので、いくら請求されても、苦にはならない。
「ではカゲルさん、今回のクエスト報酬は請求金額を差し引いた金額になります。宜しいですね?」
俺はゆっくりうなずく。別に文句はない。ていうか早く帰りたい。人と喋りたくない。
「ではこちらの、千三百リンが報酬です。気をつけて帰ってくださいね。」
俺は背伸びして、カウンターの上にあるお金を受け取る。
『背伸びしてかわいい』
『『『『『それな』』』』』
やけに受付嬢さんが笑顔だな。もしかして、俺になんか辺なとこある!?
だが別に、顔や服装を確認したが、辺なところはなかった。じゃあ、なんで?
俺は不思議な気分のまま帰路についた。怖いなぁ。
是非ポヨポヨじゃない、ポイントください