ふぐ、食べに行こう2(カブ)
「ああ~ん!? それじゃあおまえはあれがいいってのか?」
「当たり前じゃない! マリーは嫌がってたじゃない!」
「それなら本人が断ればいいことだろ!」
「だからそれができないんじゃない! 家のしがらみとかで!」
「それならなんの関係もないやつがぶっ壊したらそれこそ駄目だろ!」
「じゃあゲンゾーは? ゲンゾーはいいの!?」
「ばっきゃろー、ゲンゾーさんは男の中の男だろうが!」
「あの……、新幹線内ではお静かに」
「「サーセン……」」
俺たちは頭を下げると椅子に座り直した。
「まったく、あんたのせいで怒られちゃったじゃない。それで、下関までどれくらいかかるの?」
「6時間くらい」
「そんなにかかるの!? 寝る! 私は寝る! 着いたら起こしなさい!」
「寝ろ寝ろ! 起きてたらうるさくて敵わねえ」
俺もそのつもりだったし。昨晩ほとんど寝てないからなあ。
……それにしてはあんまり眠気ないな。
「私、昨晩ほとんど寝てないけど、あんまり眠くないな」
「おまえも?」
「むしろ、なんか調子いい」
「俺も」
てことは異世界に行っていたことが影響あるのかな。
余談ながら、座禅が健康にいい理由として、心と身体の関係があるという説がある。
身体というものは、怪我をしたり病気をしたりすれば自然と治そうとするものだ。
だが、それがうまくいかないのならば、それは心が阻害している可能性がある。体調が悪ければ気分が沈むもんで、それが悪いほうに影響している、てなもんだ。
だから、座禅をすることによって心と身体を切り離して、身体による自然治癒に任せることが健康に繋がるってわけだ。
異世界ではいくら怪我をしてもこちらに戻ってくると、その怪我はなかったことになっている。感覚では異世界で感じた痛みもなにも覚えているが、身体はまったく傷ついていないのだ。
ひょっとしたら、異世界に行っているのは俺の中のなにか、心とか精神体とかそういうので、身体自体は行っていないのではないか、そんなことを思った。
「ねえ……、あんた、怖くないの?」
「なにが?」
「異世界で戦うこと」
「……」
何十というゴブリンが明確な殺意を持って向って来るのだ。怖くないわけがない。
そして、今回、俺たちは傷ついた。
現代人が極端に恐れるものがある。
「血」だ。
血はリアルだ。直接「死」を連想させる。
今まではゴブリンを倒しても光の粒子となって消えてくれた。血を見ることもなかった。
そう、ゲームのように。
だが、俺たちは直接血を流した。「死」に直面した。
「あの世界で死んだらこっちの私たちはどうなるのかな」
「びびったか?」
「びびっては、いる。正直怖い」
「……俺も」
ブリは姿勢を変えて俺の顔を覗き込んできた。
「じゃあ、これ、止められるならやめる?」
「やめない」
「なんで?」
「さあ、な。探せば理由はいくらでもありそうだけど、一番の理由はイモ引くのがダサいから、かな」
「そっか……、じゃあ私もやめない」
「やめてもいいぞ」
「絶対やめない!」
「なんでだよ」
「わかんない?」
「まったくわからん。おまえのことはよくわからん」
「人の価値は、ね。セックスより気持ちいいことを知っているかどうか、だって」
「……達成感ってことか?」
「さあ? でも、私は言い換えてこう思う。人には死んだほうがマシってことがある。人の価値はそれを知っているかどうかで決まるって。どう?」
「なんの引用かは知らないが、おまえが言うとよさが消えるなっ痛え!」
ブリ、俺の肩にパンチしやがった。
「私にはあるの! 死んだほうがいいってこと!」
「なんだよ、それ」
「あんたが私の彼氏になったら教えてあげる」
「それ、絶対教えないって言ってるよな!」
「あははははは!」
「新幹線内ではお静かに!」
「「さーせん」」
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