地獄に行こう
11月25日投稿2/2
ナギサちゃんのお母さんと別れた後、私たちは病院を出て駅に向かっていた。
空気は、当然のように重い。
「ナギサちゃん、こんなことになっていたんですね」
異世界で会うナギサちゃんは、明るく元気で、とても現実でこんなことになってるなんて想像も付かなかった。
「……ま、こういうこともあるわな」
私は、カブさんの言葉に耳を疑った。
「カブさん、どういう意味ですか?」
「瓦が落ちても死ぬ奴は死ぬ。隣で爆弾が爆発しても生きる奴は生きる。ナギサは、運が悪かったんだ」
確かにそうかもしれない。
けど、それを、今、言う?
「世の中どう考えたって平等じゃねえもんな。ナギサみたいな不幸な子もいれば親に犯罪もみ消してもらって好き放題やってる馬鹿ガキもいる……」
「カブさん、少ししゃべらないでください」
私はカブさんを黙らせた。
胸に過るのは、失望。
確かにカブさんには弱者を気遣うことに無頓着な部分があった。
でも、それでも私は、カブさんが好きだった。
初めて会った時も私を気遣ってくれて助けてくれた。
今までだって何度も助けてくれた。
でも、今回のことはあまりに情が薄すぎる。
「エト、悪いけどひとりで帰れるか?」
「大丈夫ですけど」
「そうか。俺と一茶はこれから和光の研究所に行くから」
それだけ聞くと、私は別れの言葉も言わずに2人を残して改札に入った。
急行が通り過ぎ、下り電車から乗客がパラパラと降りてくる。
胸のモヤモヤが晴れない。
渦巻くのはナギサちゃんのこと、カブさんのこと。
カブさんがあんな人だとは思わなかった。
そもそも私はカブさんのなにを知っている?
なにも知らない。
でも、知ってる部分もある。
私の知っているカブさんは、あんな人だったか?
言葉はまとまらないが、とにかく一度カブさんの目を見てなにかを言おう。
そう思い、私は到着した電車に乗らず改札に戻った。
カブさんと一茶さんは、いた。
すごく目立っていた。
周りから遠巻きに見られている。
カブさんが、一茶さんの胸倉を掴んでいたからだ。
「一茶、てめえ頭いいんだろなんとかしろよ!」
ここまで聞こえる、血を吐くような大声。
「かなりの無茶ぶりだね」
「一日何時間勉強してんだよ! それは金のためか周りよりいい大学入ってえばるためか? それだけやってガキ一人救えないのかよ!」
カブさんは私の前で被っていた仮面を脱ぎ捨て、一茶さんに怒鳴り散らした。
理不尽は承知しているだろう、が、一茶さんは不満を表情に出さず、こう言った。
「手段は、ある」
カブさんは、突き放すように一茶さんを掴んでいた手を離した。
「でも、並じゃないよ」
「今まで俺たちが並のことしてきたかよ」
「それでも、確認の必要がある。ことによっては、世界中を敵に回すことになる。君に、その覚悟はある?」
カブさんは一茶さんを鼻で笑った。
「こっちゃあもともと閻魔の裁きじゃ地獄行きが決まってる身の上だ。今更常世の悪行ひとつふたつ加わったってびくともしねえよ」
カブさんは、一切のてらいもなく、そう言った。
仲間のために地獄に行くと、そう言い切った。
たぶん、私がカブさんを本当に好きになったのは、この時なんだと思う。
学校のみんなのように『恋に恋する』というんじゃなくて。
自分の身を削ってでもこの人が欲しい。
そう思えたのだ。
私は、駆け出していた。
そのままの勢いでカブさんに抱き付く。
「その話、私も聞きます!」
「うお、エト。帰ったんじゃなかったのか?」
「残念でした。私を仲間外れにしようなんて駄目ダメです! さ、どこか入りましょ。私、ファーストフードがいいです」
私はカブさんの手を取った。
さあ行こう。
ナギサちゃんのためでもなく。
仲間のためでもなく家族のためでもなく。
もちろん名前も知らない誰かのためでもなく。
自分のために。
カブさんと地獄に行こう。




