ナギサの現実
シリアス回注意。
次のクールタイムの時に、私は久しぶりにカブさんに話しかけた。
「か~ぶさん♪」
「お、エト。最近なんかぶーたれてたが、機嫌は直ったのか?」
「はい。問題は解決しました!」
「そうかそうか」
カブさんは邪気のない笑顔を私に向けてくれる。
この後カブさんは悪女にコテンパンにされて捨てられることを考えると同情するが、そこで落ち込んでいるところを突け込めと志保ちゃんに借りた恋愛読本に書いてあったので、私は心を鬼にすることに決めた。
「あ、そうだ。エト、明日暇か?」
「デートですか? もちろん暇です」
「一茶も一緒だけどな。ナギサのところに行くんだ」
ナギサちゃんは元気一杯の小学生の女の子だ。
私たちは週末、作戦会議と称して現実で顔を合わせることにしてる。
もっとも、カブさんや私は8月の間日本にいなかったり、イオちゃんが立川の西に住んでいて遠かったりするので必ずしも全員が揃うわけではない。
けど、ナギサちゃんは今まで1回も参加していないのだ。今まではナギサちゃんが小学生だからひとりで電車に乗れなかったり行動範囲が狭いため、と思っていたけれど。
「俺たちも地盤が固まって来たから、一茶がナギサの親に挨拶するらしい。あいつもヘタレだよな、ひとりで行けばいいのに」
「不名誉な評価をありがとう、なんならカブがひとりで挨拶してきてもいいけど?」
横から一茶さんが口を出す。
このふたり、いつも一緒に行動してるのよね。少し妬ける。私も一緒に行動したい。
と、言うわけで、私は一茶さんとカブさんと、現実でナギサちゃんに会いに行くことにした。
池袋で待ち合わせて電車で数駅。そこから駅前の商店街を歩き10数分。
辿り着いたところは、大きな病院だった。
「ここ、ですか?」
「うん」
一茶さんに先導されるように私とカブさんは病院に入った。
受付で手続きを済ませ、エレベーターに乗る。
「ナギサちゃん、入院しているんですか?」
「……」
一茶さんは、答えなかった。
病室は、個室だった。
「不破渚」のネームプレート。
一茶さんは、軽く息を吸った後、ノックしてドアを開けた。
私は、部屋に入れなかった。
そこには、ナギサちゃんがいた。
身体中に包帯を巻かれて。
まるで、ベッドに拘束されているかのように。
ナギサちゃんは、動かない身体を動かして、こっちを見た。
時間が動き出したのは、カブさんが背中を押してくれたからだ。
カブさんは私の横を通り過ぎると、躊躇いも見せずに病室に入った。
「ばーか、なにやられてんだよ」
「む~うー、カブ、うるさい!」
「はは、怒るな。プリン買ってきてやったから」
カブさんはベッドの横にある丸椅子にどかりと座った。
「ナギサちゃん」
「あ、一茶だ。エトもいる!」
ナギサちゃんは首をわずかに動かして、顔を綻ばせた。
その姿がとても痛々しくて、私はなんとかそれを表情に出さないように笑顔を作った。
「ナギサちゃん、こんにちは」
「カブ、プリン、プリン!」
「わぁったって。エト」
「はい、ナギサちゃん♪」
私は来るときにデパートで買ったプリンを取り出し、プラスチックのスプーンでナギサちゃんの口に運んだ。
ナギサちゃんはギプスで固められた両手両足をバタつかせ、ほにゃらと顔を崩す。
「エト、もっと!」
「大丈夫? あまり食べすぎるとお腹痛くなるよ?」
「だいじょーぶだから!」
その後何度かプリンをナギサちゃんの口に運ぶ。だが、4分の1も食べるとナギサちゃんの目はトロンとしてきた。
「なんだ、疲れたか?」
「うん、眠くなった」
そう言って、ナギサちゃんはストンとシャットダウンするように眠りに落ちてしまった。
「まだ体力がないんだろうね。僕たちも行こうか」
一茶さんに即されて病室を出ようとする。
「あの、どちら様でしょうか?」
入口から声を掛けてきたのは、女性だった。
まだ若い、おそらくナギサちゃんの母親だ。
「どうも。ナギサちゃんのお母さんですね?」
女性は頷いた。
病人に食べ物の差し入れはどうかと思いましたが、そのままにしました。
突っ込み無用でお願いします。




