エト対ストゥレガ 後編
私が寮長を睨みつけてるのを、志保ちゃんは目敏く気付く。
「美夜、どうしたの?」
私は、少し迷ったが、寮長を指差して言った。
「あの人に取られたの!」
きゃあきゃあと再び上がる黄色い悲鳴。
「美夜さん! それは本当?」
「本当に違いないわ! だって、嘘付く必要ないもの!」
「え、まって!? ということは、美夜さんの相手はおじ様なの?」
「お相手が若い可能性もあるわ」
「どっちにしても歳の差ね! アバンチュールだわ!」
「寮長! 私応援します! 歳の差なんて気にしないでください!」
「え?」
「歳の差や人種の壁なんて、恋愛には些細な障害よ!」
「恋愛に歳の差や性別なんて関係ない! 瑞樹お姉さまもそう思いますよね?」
「そこで振られるのはとても困るのだが」
「そうよ! 恋愛に歳の差や血縁なんて関係ないわ! 私、弟と結婚するわ!」
「「いやそこは気にしたほうが」」
寮長は周りの声を無視し、私の前に立った。
「あ~、美夜くん。お互いにとって深刻な誤解があるようだ」
「誤解ってなんですか!」
私は寮長の前に立った。
寮長は優しく微笑むと、私の肩に手を置いた。
そして、
腹部に響く重い衝撃。
息が詰まった私は身体を九の字に折った。
寮長は動けない私を肩に担いだ。
「あまり騒ぎすぎないように。瑞樹くん、節度を保って切りのいいところで解散してくれ」
「は、はあ」
寮長は私を担いだままサロンを離れ、寮長室に入り、そこからさらに階段を下りて射撃場の床に私を放り出した。
ちなみに、私はここで1学期、寮長に射撃を習ってた経緯がある。
私は、むせ返って床に這いつくばったまま寮長を睨みつけた。
「美夜くん。まず話を聞いてほしい」
「なにがですか! というかなに考えてるんですか! 寮長とカブさん、30歳近く歳離れてるじゃないですか!」
「だから、そこにまず誤解がある。私は、カブくんと付き合ってはいない」
「は?」
あまりと言えばあまりな言い訳。
「そんなはずない! 私は直接聞いてるんです! 誤魔化さないでください!」
「だから、カブくんが誤解しているんだ」
「?」
私は床にあぐらを組んで座った。
寮長も同じように私の前に座る。
「確かに、私とカブくんには肉体関係がある。だが、それだけだ」
「? それって付き合っているってことじゃないんですか?」
「大人になるとそうはならない。けど、カブくんがそうだと思い込んでいるんだ」
「じゃあ、寮長はカブさんを好きじゃないんですか?」
「好きか嫌いかで言えばもちろん好きだが、それとこれとは話が別だ」
「どう別なんですか?」
「私も若くない」
? 意味がわからない。
「会うたび何度も、酷いときには夜通し朝まで求められる。愛情は感じるが、身体がもたない」
? まるで意味がわからない。
「つまり、どうゆーことなんだってばよ?」
「どこで覚えてきたそんな言葉使い。つまり、遠からぬうちに私とカブくんの関係は解消されるってことだ」
「別れるってことですか?」
「だから初めから付き合ってないと言ってるのに」
「そーですか。別れるんですか!」
「問題はどうやってカブくんを傷つけないようにするかなんだが」
「別れるんですね。よかった。これで世界は平和になります」
「……人の話を聞きなさい」
暗雲がようやく晴れたように、私の心は軽くなった。




