エト対ストゥレガ 前編 (エト)
9月になり新学期になった。
これ以上逃げることも叶わず、私、エトは東京都中央区にある私立佃島女学院の寮に足を運んだ。
「美夜、久しぶり。夏休みどうだった?」
寮で同室の志保ちゃんに声を掛けられる。
私のしかめっ面を見て、志保ちゃんも渋ったらしい顔をした。
「なに? 家族と喧嘩でもした? 確かに、1か月も顔を合わせてるとうざくなってくるよね~」
私は首を横には振った。
「じゃあどうしたのよ? 頭悪いくらいほんわかしてんのがあんたの特徴なのに、そんな顔してても可愛くないわよ」
とても失礼な評価だ。
「そうじゃないの! とてもひどいことがあったの!」
「だからなにがあったのよ?」
私は下を向いて言った。
「……彼氏を取られた」
「ちょっと待った!」
志保ちゃんは言葉をかぶせるようにそう言うと私の手を取り、部屋を出た。
向かった先は、寮のサロンだ。
「あ、志保さん美夜さん。お久しぶりです。私、帰国前にパリの有名店でマカロンを買ってきたのよ。食べてみてくださいな」
「あら、私は北イタリアのオーベルジュでドルチェを作ってもらったわ」
「ちょ、すと~っぷ! 今大切な話があるから!」
志保ちゃんは私をソファに座らせると、何事かと人が集まってくる。
「あ、美夜くん。久しぶり、ブリくんとのことを聞いたか? うちのバカ兄、ブリくんを別荘に誘って断られたって! いや、馬鹿だ馬鹿だと思っていたがやっぱりバカだった! いきなり付き合ってもいない女子高生をお泊りデート誘ったって断られるに決まって……」
「ちょっと瑞樹先輩! ちょっと黙っててください!」
「お、おう」
志保ちゃんは瑞樹先輩を黙らせると、サロンに静寂が訪れた。
私たちに集まる100近い視線。
ちなみに、佃島女学院は中高の6学年合わせて100人いないので、ほぼ全員が集まってることになる。
「さ、美夜。さっきのをもう一度」
軽い拷問を感じながら、私は投げやりに言い捨てた。
「彼氏を取られた!」
途端に上がる黄色い悲鳴。
「まあ美夜さん。ひと夏の恋を経験なさったのね? うらやましいわ」
「美夜さん、お可哀想に。でも、女は失恋の度に強く美しくなるのよ。この間読んだ小説に書いてあったわ」
この人たちは人の不幸を……。
「こらこら、なんの騒ぎだ? 久しぶりの再会に浮かれるのはわかるが、淑女としての振る舞いを……」
私たちが騒いでいると、悪者が現れた。
上代貴美子。
ここ、佃島女学院の寮長で私の彼氏(本当は付き合っていない)を寝取った極悪人。
私の中ではヒトラーの次くらいに悪い人だ。




