動き出す世界 前編
そんなことを考えて基地に帰り、シャワーを浴びると部屋に戻ることなくヘリに乗せられた。
そのまま友澤グランドホテルに約1か月ぶりに帰り、超が付くスウィートルームに案内された。
中にいたのは、ワインレッドのナイトドレスを着た貴美子さんだ。
「貴美子さん、思わず見惚れちゃったよ。こんな美人が彼女になってくれたんだから俺は果報者だ」
「うん、まあ、その、ありがとう。その話は今度ゆっくりしよう。それより……」
貴美子さんは隣を指差す。
そこにいたのは筋肉隆々の老人。トニー爺さんだ。でかい会社の社長らしくけっこう偉い人らしい。
「なんだ、爺さん。いたのか? 他人の恋路は邪魔するなって諺、英語になかったかな」
「それは悪かった。そろそろ日本に戻ると聞いたのでな。その前に食事でも、と思って呼び出させてもらった」
「こっちゃ9月から学校だよ。あっという間に夏休み終わっちまったな」
俺は用意された席に座らず、少し離れたソファに寝転がった。
いや、今日も疲れた。考えてみれば軍事訓練を受けた初日は夕飯も食えず立ち上がれないくらい疲れてたから、その頃に比べればけっこう鍛えられたのかもな。
爺さんが合図すると、部屋の奥から料理が運ばれてきた。
運んできたのは現地の人ではなく白人の給仕さん。セキュリティを兼ねているのかもしれない。
俺を意識したわけでもないだろうが、料理は寝転がったままでも食べやすい切り分けられた鉄板焼き料理だった。
俺はエビをフォークで刺し、口に運んだ。
頭蓋骨内に満ち、眼窩から飛び出しそうな旨みが広がる。
ああ、これは駄目なやつだ。この味に慣れたら贅沢に堕落する。
「カブくんは、日本に帰ったらどうするんだね?」
「どうもしねえよ。とりあえずは落第しないように勉強して高校を卒業する」
「よかったらうちの会社に来ないかね? 見たところ英語も問題なく話せるようだしアメリカに来るのが嫌なら日本支部で役職付きで雇おう」
「怖い怖い。俺の友人、いや、知人が言ってたが、『金持ちは金持ちになることやってるから金持ち』なんだってよ。釣られて1流企業なんかに就職したらどんだけ責任被らされて仕事漬けにされるか」
俺は串焼きの肉を齧った。
普通に歯で噛み千切れる柔らかさ。米軍基地の筋張った赤肉ステーキとは大違いだ。
「……少し本音で話そうか」
爺さんは椅子から立ち上がり、俺の前に来ると、ドカリとカーペットに座り込んだ。
そのままゴロンと寝転がると俺の皿からホタテの串焼きを取り上げて口に運んだ。
「おい、爺さん!」
「ほお、こういう『ローマ式』というのも案外悪くないのお!」
そのまま瓶ビールをグビリ。
「少し面白い話があってな。わが社のスーパーコンピューターに『ニューワールド』の分析をさせたのだ」
「へえ、興味深いな。で、どうだったんだい?」
「結論は『有り得ない』」
「……ま、常識的見解だわな」
「そこで次は『有る』という前提で分析させた」
給仕さんが新しい料理を運んできた。
大皿ひとつに寝転んでいても食べやすい大きさにカットしてあった。
うん、言われんでも最適化してくるあたりすごく優秀だなあ。
「すると、こんな結論になった。『現状、現実世界とニューワールドの間には明確な齟齬がある。近い将来、それが解消されることになるだろう』」
次回は20日20時を予定しています。
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