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週末は、異世界行って金稼ぎ  作者: 浅野 
海外旅行と淡い恋
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ゾンビに銃は本気で愚策だと思う

「その辺でいいじゃろう」


 横から声を掛けてきたのは、先ほどの老人だった。

 カブくんはきっかり1秒ほど老人を見て、男を離した。


「ま、いいだろ。許してやる」


 カブくんは床に座り込んで茫然としている男の曲がったメガネを元の位置に戻した。


「同盟国とはいえ小さな市民団体と侮ったのはこちらの落ち度だったな。ペンタゴンはおろかホワイトハウスにまで根回し済みでおまけに『ストゥレガ』まで出張って来たとあればこちらもそれ相応の対応をせずにはおられまい」


 そう言って老人はチラと私を見た。

 ちなみに『ストゥレガ』は私の傭兵時代の仇名。当時はイスラム圏や東側に付いてアメリカには蛇蝎の如く嫌われたものだ。


「ホワイトハウスだかストゥレガだかよくわからんこと言ってるが、爺さんあんたなにもんだい?」


「トニー・シュトーク。シュトーク社のCEOをしている」


 私、福留くん、一茶くんは唸った。


 トニー・シュトーク。通称「ヴァイスマン」、アメリカの生ける伝説だ。

 軍産複合体のドンで「悪徳者」、あるいは任期最大8年の大統領に対して終身の「アメリカの副王」なんて呼ばれている。

 私の勤務する『佃島女学院』の父兄には、親が王族貴族、大企業創業者一族など肩書に事欠くことはないが、それでも彼の前では小粒になってしまう、それほどのビッグネーム

だ。


「一茶、CEOってなんだ?」


 ひとり状況を理解していないカブくんが一茶くんに聞く。


「……最高経営責任者。会社で一番偉い人」


「なんだ社長か」


「うん、それでいいや」


「面倒くせえ、社長じゃねえか。無駄に横文字使いやがって。おう、爺さん、よろしくな」


「うむ、よろしくな。アイダトウジくん」


「なんだよ爺さん、なんで俺の名前知っている? 俺のファンか? ストーカーは頂けねえな」


「共通の知り合いに君のことを頼まれてね。それで東南アジアの小国まで足を運んだんだよ」


「あ~、どうせ老師だろ? 過保護なんだな、あの人」


 そう言ってにこやかに笑い合うカブくんと老人。


「これから時間はあるかね? よかったら『遊び場(park)』に案内しようか?」


「悪いけど、仕事のとちゅ「いや、いいから!」なんだよ急に」


「カブ、ここは僕と福留くんでやっておくから!」


「遠慮すんなよ。俺もやるぜ」


「あとは面倒な事務仕事だけだから!」


 一茶くんはすがるように私を見た。


「カブくん。せっかくのお誘いだ。ご老体の好意に甘えよう」


「まあ、貴美子さんが言うなら」


 私とカブくん、トニー老は一茶くん、福留くんと別れた。

 そして向かった先は、屋上だった。

 そこに待機していたヘリに乗り、さらに移動。


「うわ! ヘリのローター音ってうるせえなあ!」


「ヘリに乗るのは初めてか!」


「当たり前だろ!」


「がっはっは! まあ、慣れることだ! 戦場というところは轟音爆音だらけだからな!」


 辿り着いた先は、駐留米軍のベースだった。

 ヘリから降り、射撃場に案内される。


 そこにずらりと並ぶシュトーク社製の銃器。

 カブくんは目を輝かせてそれを手に取った。


「試し撃ちをしてみるといい」


 トニー老にそう言われるとカブくんは喜々としてアサルトライフルを手に取り、的に向かって発砲した。


「っく~、すっげえ衝撃! さすがに電動銃トイガンとは違うな!」


 カブくんは銃を撃ち続ける。驚いたことに、かなり腕がよかった。

 200メートル、300メートル離れている的に正確に当て続けているのだ。


 アサルトライフルの弾が尽きると、次はサブマシンガンを撃ち、ショットガンを撃つ。


 そして、カブくんはアンチマテリアルライフルを手に取った。


「あ、カブくん……」


 注意しようとしたところをトニー老に止められる。ニマニマとした顔を見て私はその意図を察した。


 カブくんは私たちの意図になぞ気付きようもなく、アンチマテリアルライフルを構え、スコープを覗き、そして、引き金を引いてしまった。


 途端、カブくんの頭は跳ね上げられ、数歩たたらを踏んで尻もちを着いた。


「がっはっはっは!」


 嬉しそうに歯を見せて笑うトニー老。

 私は苦笑してカブくんに手を差し出した。


「大丈夫かい?」


「大丈夫じゃねえよ。なんだよ今の」


「……音、だよ」


 おそらくカブくん自体も衝撃による反動は予想していただろう。だが、音については無警戒だった。


 アンチマテリアルライフルの弾速はマッハ1(時速約1200キロ)を超える。それを生み出す薬莢の爆発が顔の真横で起こったのだ。このレベルになると音は凶器になる。直接質量を持ってぶつかってくるのだ。


 カブくんは私の手を取って立ち上がった。


「ちくしょう、こんなん使えるか! あー、耳痛え」


「トウジ、いや、カブくんと呼んだほうがいいか? 君は正規の軍事訓練を受けていないようだ」


「当たり前だろ。俺、高校生だし実銃だって今日初めて撃ったよ」


「そうか。君は今サマーバケーションの最中だろう? よかったらここで訓練を受けていくか?」


「う~ん、貴美子さん、どうする?」


「は?」


 いきなり話を振られた。


「確かビザは1か月滞在ならいらなかったから申請は必要なさそうだけど」


「いや、いやいや、私もかい?」


「当然だろ? な、爺さん」


「うむ! ストゥレガも一緒とはこりゃ楽しい! 隊員たちにもいい刺激になるだろう!」


「貴美子さんも寮が夏休み中なら日本帰っても暇だろ?」


 いや、暇ではない。だが、トニー老の言葉なら全てに優先する。

 ……歳を取ったなあ。

 カブくんと同じくらいの歳ならたとえどんな権力だろうと鼻で笑って中指を立てていただろう。

 事実、当時はアメリカ相手にガチの殴り合いをしていた訳だし。


 こうして私とカブくんの夏休みの予定は決定した。してしまった。







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