ゴブリンをやっつけろ!前編(エト)
車が急ブレーキを踏んだ時のように、身体がつんのめる。
態勢を整えて立ち上がったときには、私、エトは一週間前に来た洞窟の広場にいた。
きょろきょろと辺りを見渡すと、そこには私の他に3人がいた。
Tシャツに短パンで枕を両手で抱えているのはブリさん。
裾の入る靴に長袖グローブの長身の男性が一茶さん。
作業ズボンにポケットのいっぱい付いたベストを着て、手には銃(両手で持つやつ。後で調べたらアサルトライフルという種類の銃らしい)を持っているのがカブさんだ。
「よお、エト。久しぶり」
「カブさん、一茶さん、1週間ぶりです」
「今日は寝巻きじゃないね」
「ええ。今日は動きやすい格好できました~、て、あれ?」
「どうした?」
「私、リュックサックも背負っていたんですけど、それがないんです」
「持ち込み制限でもあるのかな。手に持ってる銃はOKだし、なにかあるのかもね」
むう、せっかく色々用意したのに。
と、ここで不思議な声が響き渡った。
『2回目のログインを確認しました。ジョブが開放されます。なお、セーフエリアは10分後に解除されます』
「セーフエリア?」
「ここのことだね。最初と最後の10分間は敵が侵入出来ないセーフエリアになるみたい」
「ところで、ジョブってなんですか?」
一茶さんは中央にある台座に手を触れた。
すると、広場内いっぱいに不思議な紋様が広がった。
「……、ジョブ、これだ。選択すると、ステータスの底上げや特殊なスキルを身につけられるみたいだ」
私も台座に触れる。
エト Lv1
ジョブ 無し
筋力 3
知覚 6
耐久 2
カリスマ 8
知性 7
敏捷 4
運 8
魔力 0
スロット 0/3
スロットというのは、ポイントを使い手に入れたスキルの使用制限みたいだ。私は0/3だからあと3つスキルを覚えられる。
それとは別に今回、ジョブという概念が追加されたので、ジョブスキルというのも使えるみたいだ。
ちなみに、スキルには4種類がある。
初級、中級、上級、その他に上級をさらに使っているとマスタースキルになり、スロットに入れなくても使えて、ジョブを変えても使える「称号」とういものになるとのことだ。
「俺、せっかく銃持ってるし射手にするわ」
「僕は前回取得した回復系のスキルを伸ばすので僧侶で」
「おい、ブス!」
カブさんがそう言った瞬間、枕がすごい速さで飛んでいった。
「誰がブスだこら!」
「あれ、ブスじゃなかったっけ」
「ブスじゃなくてブリね」
「似たようなもんだろ」
「調子に乗ってんな! 金玉喰いちぎるぞ糞ガキが! ったく、目が覚めちゃったじゃない。んで、なんで私、またここにいんのよ」
そう言って辺りを見渡すブリさん。
たぶん、前回の私と同様に就寝中だったのだろう。
「おまえもジョブ選べ」
「ジョブ! ジョブ来たわね~。どれにしよっかな~」
ブリさんの環境適応能力はすごいと思う。なんの説明もなしにジョブを理解しているし。
「私、格闘家にしよ~っと」
「格闘家? おまえ近接戦できるのかよ」
「へへ~ん。これでもリアルで空手黒帯だぜ」
「そういえば、最初のゴブリンにした飛び蹴りも綺麗に決まっていたっけ」
「んで? エトはどうするんだ?」
急に話を振られる。
「えっと、どうしましょうか?」
「そんなもん、好きなの選べばいいんじゃねえの?」
「でも全体のバランスとかありますし」
「そうだねえ。戦闘員はすでに2人いるし回復は僕がやるからそれ以外だね」
「それ以外、といいますと?」
ブリさんは台座を操作した。
「魔法使いで遠距離攻撃は?」
「やめておいたほうがいい。僕のヒールは魔力2で使用回数が2回だ。下手したら1回魔法使って終わりってことになるかも」
環境によってはそれでもいいのだろうが、私たちの敵は数の多いゴブリンなのだ。
「それじゃあ回復役2枚でもいいんじゃないか?」
「わかってないわね~。それじゃあ戦術の幅が広がらないでしょ!」
「じゃあどうすんだよ」
「パターンとしてはやっぱりバフ系よね」
「バフ?」
「味方の攻撃力を上げたりできるの。あ、でもこれも1回使って10分で終了ってことになりかねないのか」
4人は腕を組んで頭を悩ませた。
「……もしこれがRPGゲームに準拠しているのなら、必要なジョブは、スカウト系だね」
「スカウト?」
「斥候で敵が潜んでいるか調べたり罠を解除したりするジョブ」
「あ、ずりい。俺、それがよかったな」
私は台座を操作した。
「スカウト系のジョブ」
すると、数個だがそれらしいものが見つかった。
私はそのうちのひとつを選択した。
『地図作成者』
知覚、運、魔力に補正。
ジョブスキル
オートマッピング
索敵
取得条件 知覚 3以上
運 2以上
「私、これにします」
エト Lv1
ジョブ マッパー
筋力 3
知覚 6(+1)
耐久 2
カリスマ 8
知性 7
敏捷 4
運 8(+1)
魔力 0(+1)
スキル
オートマッピング 初級
索敵 初級
スロット 0/3
さっそく、覚えたスキル『オートマッピング』と『索敵』を使ってみた。
すると、頭をぐらぐら揺すられたような感覚の後に、半透明の画像が浮かび上がった。
これは、地図だ。広場と通路の簡単な図が表示されている。
その地図に、青い丸が2つ、通路に赤い丸が30個くらい。
青い丸が仲間、赤い丸は通路のゴブリンだとわかるが、青い丸が2つしかない。
「それは、たぶん『索敵』が魔力を感知してるからじゃないかな。レベルが上がれば熱源探知とかもできるかも」
なるほど、私はジョブ補正で一茶さんは能力向上で魔力を手に入れたけど、まだブリさんもカブさんも魔力はゼロだ。
「通路に30匹か。よくもまあうじゃうじゃと」
カブさんは通路のほうへと足を進める。
それに気付いたゴブリンたちは殺到してくるが通路と広場の狭間にある見えない壁に阻まれてこちらに来ることが出来ないでいた。
「なるほど、これがセーフエリアか」
カブさんは銃口をゴブリンに向け、撃った。
たんッ
小気味のいい音が広場に響き、ゴブリンが一匹崩れ落ちた。そして、そのまま光の粒子となって消えた。
「お、こちらからの攻撃は通るんだな。ならやりたい放題じゃねえか」
カブさんは続けて撃つ。
たんッたんッたんッ
ドラムがビートを刻むようなリズミカルな銃声、それが上がるたびにゴブリンは消えていく。
最初はいきり立って見えない壁に攻撃を仕掛けていたゴブリンも、仲間が次々と倒されているのに怖気づき一斉に逃げ出した。
カブさんはそれでも容赦なく銃撃を加えて行く、が、20発も撃った頃だろうか、弾が出なくなった。
「ほら、残弾確認」
「わかってるって」
カブさんはベストのポケットからマガジンを取り出すと銃に取り付けた。
「それ、ホンモノじゃないですよね」
「ああ、おもちゃだよ。改造してある違法物らしいが。でも、一茶の想像通り、効いたな」
「だろ?」
カブさんと一茶さんは拳をぶつけ合った。
「ところでカブ、レベルは上がった?」
「レベル?」
「いくら雑魚でもあれだけ倒せば一つくらいは上がると思うんだけど」
カブさんは台座に手を置いた。
カブ Lv3
ジョブ シューター
筋力 6
知覚 7(+1)
耐久 8
カリスマ 4
知性 3
敏捷 7(+1)
運 2
魔力 0
スキル
体力回復小 初級
射撃 初級
狙撃 初級
スロット 1/3
「レベルは上がってるけど、ステータスはほとんど、ていうか記憶違いじゃなければまったく上がってねえな」
「そっか。なるほどね」
「おい、思わせぶりなのはやめろ。どういうことだよ」
「ただ、これをゲーム、そう言っていいのかは疑問だけど、ゲームだとするなら、レベルが上がってもステータスが上がらないものだと思っただけだよ」
「じゃあどうすんだよ」
「単純に、ポイントで上げるってことになると思う。僕が魔力を上げたみたいに。だから、必要なのはどれだけ効率よくポイントを稼ぐか、ってことかな」
「じゃあレベルって意味ないのか?」
「いや、たぶんスキル取得の条件で必要になるんじゃないかな。強力なスキルはレベル10以下は取得できない、みたいな」
「そういえば、ポイント、どうだったんですか?」
「……なんか増減があるみたいだけど、ゴブリン1匹50ポイントってところだな」
「それじゃあ今だけでカブさん1000ポイントくらい稼いだんですか? すご~い!」
「……ちなみに、今ブリちゃんが食べてるポップコーンは1000ポイントで交換ね」
そう言って振り返ると、ブリさんはひとりでポップコーンを食べていた。それももしゃもしゃとおいしそうに。
ちなみに言うと私たちは最初に一律で3000ポイント持っていた。
カブさんはその後『体力回復小』を1500ポイントで取得して、前回1匹、今20匹を倒したので差引き2050ポイント持っているらしい。ブリさんは前回ゴブリンを1匹倒して、缶ジュース1000ポイントに今回のポップコーンであと1050ポイント、とのことだ。
うう……、ブリさん。